第9話 夜遊び

「なんだ。お前もこれから街に行くのか?俺も今から行くところなんだ。乗っていくか?」



マジビックリした。僕は見かけよりも随分と気の良い、さっき僕の前に立ちはだかった雑用係の大男のケインと一緒に、荷馬車に乗って夜の街に向かっていた。歩いたらそこそこ掛かりそうな一本道は、荷馬車だったらあっという間だった。


直ぐに賑やかな繁華街の喧騒が感じられて、僕は心が浮き立つのを感じた。ふとケインが僕の方をチラチラ見ているのに気がついた。地味な服を選んだけれど、ルークの服じゃ、やはりお上品になってしまうんだろうか。そういえば鏡でチェックもしていない。



でもケインは僕の顔を見ていた。ケインは躊躇いつつ僕に尋ねてきた。


「なぁ、お前何歳だ?もしかして未成年か?」


僕はキョトンとしてから、笑って答えた。


「僕は18歳だよ。何で?未成年に見えた?最近伯爵家に雇われた、ガブリエル坊ちゃんの子守り兼遊び相手だって言ったろ?」


うむ。嘘は言ってない。実際はカワウソ様だが。



「いや、随分若く見えるからさ。そっか、俺とそう変わらないな。俺は20歳だ。俺もひと月前に雇われたばかりで、屋敷の人の事はよく知らないんだ。でも、流石に坊ちゃんの側に居るだけあって、身綺麗なものだな。」


僕は自分の服を見下ろして、ケインに尋ねた。


「僕、この街は初めてなんだけど、この格好じゃ変かな?足元見られるかな?」



するとケインはニヤリと笑って言った。


「お前が何処に行くかによるだろ?俺は娼館へ行く予定だけど、ジュシア、お前は?」


僕はケインを呆れ顔で見つめて言った。


「週末でもないのに娼館へ行くケインも凄いけど、僕は遠慮しとくよ。ちょっと夜の街をぶらつきたいだけだから。」


するとケインはもう一度僕をじっと見つめて言った。



「お前を一人歩きさせるのはちょっと心配だけどな。俺は女が好きだけど、お前の様な可愛い顔の男が好きな奴は多いんだ。いいか?ひと気の無い路地には絶対行くなよ?必ず賑やかな店だ。分かったか?」


そう心配そうに言うケインに礼を言うと、僕は荷馬車を降りて、賑わっている夜の街に繰り出した。ああ、マジで楽しみ。全然状況が分からないけど、きっと何とかなるだろう。



酒の一杯くらい引っ掛けて帰れば上等って事で、僕は勇んで街の通りを歩き始めた。僕はカワウソ人間型では初めての人間社会に興奮していたから、見るもの全てが珍しく感じて、僕自身を沢山の視線が追いかけてきているなんて、全然気が付かなかった。


丁度教会の鐘が鳴って、時刻は夜の8時を指していた。これから大人の時間だ。僕はニンマリすると、賑やかな人達の集まる大きな酒場に入って行った。



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