レイ再び

 集落のあった山間部をくだり、目についた町なかのコンビニに寄った。用を足したくなったのと、少し食料を調達しておこうと思ったからだ。


 トイレを出た後、サンドイッチやおむすびを買い込む。レジ横のフライヤーも気になりどれにしようか迷っていたところ、レジに立つ女の子の店員に目が行った。


 さっき祭壇に乗せられてた子じゃない? 髪型も一緒だし間違いなさそう。とても美人な子だが、笑顔で接客している最中だ。朝早くからアルバイトかな? ごくろうさまです。


 集落の近くに住んでいたってことか。妖しげな団体に無理やり連れ去られたのか、もしくは彼女自身も所属していた結果あんなことになったのか……。

 どのみち彼女の未来はすでに変わってる。結果オーライだし今さら関係ないか。


 隣県に向かう途中で数件の赤い点滅があった。どれも事故に巻き込まれた人を助けるというもの。川で溺れかけた子供や、トラックと衝突する寸前の軽自動車。何ということはない、俺がやるのは彼らに触れることだけだったが、みな新たな未来に置き換えられ起こるはずの悲しい事故が消える。


 良いことしてるのか何なのかよく分からないが、少なくとも本人やその家族が悲しまずに済むんだから良いことなのかな……?


 道沿いの公園で野営をしながら行動時間を確認する。親指をこすってウインドウを開きカウント時間を見ると、時間が止まったあとの経過時間、それと日数換算が表示されている。およそ1ヶ月くらい経っているようだ。

 そういえばよく見ていなかったが、時間以外もウインドウに載っている。

 体温や心拍数などの健康パラメーターのほかに移動距離なんかもあった。その中のひとつに目が留まる。


「システム安定度……?」


 何のシステムだろう……。数値は15%となっているが、少ないのか多いのかよく分からない。まあいいや。



 休息を挟んだ翌日、ようやく隣県に入った。すでにカノンが通ったあとなので途中に赤い点滅は残っていない。彼女のいる街へ一直線に向かうこと約2時間。カノンの位置を示す緑色の点灯がすぐ先に迫っていた。


 ……でも、変だな。やっぱり緑の点が二重に見える。


 カノンがいる街は県内でもそこそこ大きな都市だ。点滅も集中しているし、ここが済めば大体の点滅は消せることになる。


 カノンがいるのは商業施設の中のようだ。おそらくカノンも俺がすぐそばに来ていることは気づいているだろう。彼女の地図にも俺の位置は表示されているはずだから。


 商業施設内の赤い点滅が消えた。置き換えが完了したようだ。彼女たちが俺のいる入り口に向かってくる様子が地図に表示されている。


 そしていよいよ本人が実際に現れた……と、あれ?


「…………レイ?」


 そこにいたのはカノンじゃなく、消えたはずのレイだった。最後に会ったときと服装や髪の長さ、それに雰囲気も少し違うが……間違いなく俺の知るレイだ。


「……60時間ぶりね」


 どこか照れくさそうに目をそらしながら、レイがぽそっとつぶやいた。……一体どういうこと……?

 レイの後ろにカノンが続く。


「!? カノン、なあこれって……」


「はぅあ!! ひ、人がいる!! レ、レイちゃん下がって!!」


 えーー?


「いやいやカノン、そういう冗談いらないって……」


「な、何言ってるんですか! ちょ、ちょっとレイちゃん近づいたら危ないですよぉ!」


 なぜだか俺を警戒するカノンを尻目に、レイは俺の乗ってきた車の助手席に無言で乗り込む。


「行くよ。カノン」


「え!? ちょっとどういうことですか!? ……なんでその人の車に……え? 知り合いなの?」


 マジでカノンどうした? 完全に初対面のノリなんだが。消えたはずのレイもいるし……何が何だか分からない。


「説明するからとりあえず行くわよ?」 レイがため息交じりに言った。


「……行くってどこに?」


 レイは無言で駅前の高級ホテルを指差す。


「お腹すいたのよ」


 なるほど。ホテルの朝食バイキングか。よほどこの間のが気に入ったんだな。


「ねえレイちゃん! その人誰なのか教えてよぉ! ……もしかして……この前行ってた彼ピ?」 


「そうよ。彼ピ」


 めんどくさそうにレイが答える。かれぴってなに?


「ウソよーー!!」


 何を騒いでいるのか知らないけど……何でカノンは俺を覚えていないんだ? レイが復活したことと関係あるんだろうか……。


「お姉ちゃんは許しませんからね、グスっ、こんな……会ったことも無い人とレイちゃんが……」


 なぜだかキッと俺を睨みながら車の後部座席にカノンが乗り込む。


「早く出してくださいっ。そこの……おじさん!」


 おじさん!? ……27歳はおじさんだったのか……?

 何だか悲しい気持ちになりながら運転席に乗り込み、車を発進させた。



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