新聞記事
あれから3時間。ずーっと新聞を探してるけどこれといった記事は見つからない。あと肩と目が痛い。
レイの方はどうだろ。外国にいた期間が長いせいで文字があんまり読めないらしい。それはもうしょうがないよね。少しは読めるんだから努力した方だよ。写真を中心に記事を探してもらっているけど……。
「めぼしい記事はあったか? レイ」
特に期待もせず尋ねたのだが、レイがこちらを見て「ちょっと来て」と言った。
大テーブルの向かい側に移動してレイが指差した記事を見る。
「飛行機事故……」
それは小型のセスナ機が海沿いに墜落したという記事だった。ひしゃげた飛行機の残骸が大きく写真で掲載されている。
「……何て書いてあるの?」
レイが真剣な眼差しで問いかける。
「ちょっと待って。……沖合の無人島に向かったセスナ機がエンジントラブルで海岸に墜落したらしい。搭乗者の何人かは……亡くなったみたいだな。半分くらいは行方不明らしい」
「乗っていた人たちは分かる?」
「亡くなった人の名前は書いてあるけど……」
数人の男女の名が載っていたが年齢までは書かれていない。新聞の日付と事故の日付を見比べると、事故の翌日に発行された新聞のようだ。
「近い日付の新聞を探そう。搭乗者のことが詳しく載ってるかもしれない」
日付がバラバラに積み重なった新聞から、先程の記事から日にちが続く新聞を探し出す。
「これだ……こっちもそうだな」
地元紙のおかげでどの記事も割と大きく取り上げられていた。
事故から4日後の新聞に犠牲者の名前と顔写真を見つけることが出来た。
セスナに乗っていたのは全部で13人。パイロットのほか、二組の家族が搭乗していた。目的地の無人島は有名ホテルのプライベートビーチになっており、チャーター機でバカンスに向かう予定だったようだ。
遺体が確認されたのは11人。パイロットの一人と、小さな女の子が行方知れずになっており海上捜索を続行すると記事に書かかれている。
「
行方不明となった少女の名だ。
俺がつぶやくと、そこに映る少女の写真をレイがじっと覗き込んだ。七五三の写真だろうか、少女は振り袖を着てにっこり微笑んでいた。
「両親とお姉さんがいたみたいだな……」
少女の隣には同じ名字の男女ともうひとり女の子の写真が載っていた。
「……母親の名前は?」
「
行方不明になった少女の姉だろうか。インクが滲んでいるのか名前の部分だけぼやけてしまっていた。
「……レイ、写真の顔に見覚えはあるか?」
レイはしばらく黙り込んだあと首をふった。
「分からない。……でも、母親の名前は聞き覚えがあるかもしれない。たしか父が母をそう呼んでた気がする……」
気がする程度じゃ確証にならないな。レイも納得はいかないだろう。
けど……4歳の女の子が行方不明になり、偶然にも同じ街で4歳のレイが犯罪者グループに拾われた……こんな偶然あるか?
「ほかの新聞も探してみよう」
もしも少女が行方不明のまま見つかっていないのであれば、この子がレイである可能性はかなり高い。見つかったのなら……それはそれで辛いことだが。
それから日付の新しい方へ記事を追ってみたが、探している女の子は結局見つかっていないようだ。やがて記事は新たな事件や事故にとってかわり、いつしか掲載もされなくなっていた。
「さて……どうするかだな」
「あたし、この事故があった場所に行ってみたい。これがもしあたしのことだったら、何か思い出すかもしれないし」
14年前の出来事だ。事故の痕跡など何も残ってはいないと思うが……何もしないよりマシか。
「そうだな、行ってみよう」
新聞記事を頼りに事故現場へ向かうことにした。
「ねえ賢太。あたしが運転するから賢太はナビをして」
「う、運転? 出来るの?」
「仲間と強盗するときはいつもあたしが運転手よ。そのへんの素人よりテクニックはある」
そこまで言うならばと任せてみることにした。正式な免許を持っているかも怪しいが、警察が機能してない今なら少しくらいいだろう。
「安全運転で頼むぞ? スピードだすなよ?」
「分かってる。賢太はあたしを案内してくれればいい」
そう言ってレイが思い切りアクセルをふかした。分かってなさそう。
「つかまって」
案の定、車が急スピードで発信する。
「レイ……もっとゆっくり」
「これがあたしのゆっくりだけど?」
価値観の違いってやつだ。諦めて新聞記事に目を戻す。
事故現場の住所は載っていない。海岸沿いのどこかなのは間違いないが……待てよ、セスナの目的地は無人島と書いてあったが、まさか事故現場もそこ?
だとすれば海を渡らないといけない。しかも無人島か……ひとつだけならまだいいけど複数あったらどれだか分からないぞ……。
不安になり地図ウインドウを開いた。街の沖合を拡大しながら島を探索すると、沖合に向かって複数の小さな島が点在している様子が映し出される。ああ、マジかぁ……。
ん? 待てよ、島の一つに赤い点滅がある。この街は、ほかの地域と違って点滅がひとつも無かったんで珍しいと思っていたが……沖合にあるせいで見逃していた?
「どう? 場所分かりそう?」
「どうかな。怪しい場所なら一個見つけた。けど海の向こうだ」
船の免許なんて持ってない。手こぎボートじゃ行けないだろうし……。
「……ひとまず海岸に行こうよ。考えるのはそれから」
レイがさらにアクセルを踏み込んだ。急がなくても時間は待ってくれるのに……事故るのだけは勘弁してくれよ。
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