手分けしよう

「なるほど……この先にレイちゃんの生まれた街があるのねぇ?」


 カノンが俺たちの説明を聞きながらふんふん頷く。


「レイの家族を一緒に探そうと思うんだけど、カノンはどう思う?」


「そんなのもちろん! 一緒に探すに決まってますぅ!」


 頼もしく胸を叩きながらカノンが言った。こいつならそう言ってくれると思ったよ。


「ありがとう……カノン。賢太も」


 レイが申し訳なさそうな顔で言った。


「そんな事情があるなら家族が気になって当然じゃないですかぁ! レイちゃんは気にしないでくださいっ。私と賢太さんがバッチリ家族を見つけちゃいますよぉ!」


 ……そんな安請け合いして大丈夫か?


「……えっと、それでだ。考えていたんだが聞いてもらえるか?」


「何ですか?」


「ここで二手に分かれるのはどうかなと思って」


「……二手に? どういうことでしょう?」


 カノンの問いに答えようとしたところでレイが口を開く。


「そうだね。賢太の言う通り、あたしはこの先で降りるよ。ふたりの仕事が終わるまではあたし一人で家族を探す」


 覚悟を決めた目でレイが言った。


「……えっと、違うんだ」


 そう言うとレイが不思議そうな目をこちらに向けた。


「レイはもちろん家族を探すのに残ってもらうとして、カノン……君も良ければ残ってもらえないかな?」


「へっ?」


 カノンがすっとんきょうな声を上げた。


「レイも言っているように、彼女ひとりで家族を探すのは大変だと思う。かといって俺たちが全部の点滅を消すのを待っていたらどれくらい年月がかかるか分からないからな。その間ひとりぼっちにさせておくわけにもいかないと思うんだ……」


「別にあたしはひとりでも大丈夫だよ」


「大丈夫かもしれないけど、俺が気になるんだ……」


「私も気になりますぅ。レイちゃんがひとりぼっちでいるなんて心配で胸が押し潰されそう……」


「……ふたりとも心配しすぎでしょ」


「とにかくレイ。君をひとりにしておきたくない。……だから、カノンにも残って欲しいんだ。残って一緒にレイの家族を探して欲しい」


「……賢太さんは」


「俺は点滅を消すために旅を続けるよ。そっちも進めておかないといつまでも時間が戻らないからね」


 レイが静かに首をふる。


「ねえ、これはあたしの問題だよ? 家族を見つけたいのはあたしの望みだし、関係ないふたりの足を引っ張りたくない」


「そんなことないわよぉ」


 カノンがレイの手をそっと握る。


「時間が止まった世界で、私たち三人だけがこうして出会えたんだよ? きっと何か理由があるんだよぉ。レイちゃんがしたいことも、私たちがすべきことも、どこかで全部つながってるんじゃないかなぁ」


 カノンが珍しく深いことを言ってる。


「私たちは、思ってるよりもずっと強い絆でつながってると思うの。だから関係無いなんて言わないで? ね?」


「……でも……」


「それと賢太さん。残るのは私じゃなくて、賢太さんがいいと思うな」


 いや何でだよ。


「女の子同士の方がいいだろ?」


「いーえ。賢太さんが残るべきですぅ! だって……」


「だって?」


「……うふっ。それはまあ、内緒ですけどぉ」


 なぜそこで笑う。……なぜウインクする。


 それからしばらく押し問答が続いたが結局、俺とレイが街に残ることになり、点滅を消す旅はカノンがひとりで続けることになった。


「もともと一人だったから平気ですぅ! それに、賢太さんとレイちゃんがさっさと家族を見つけて合流してくれれば問題ないです!」


 というカノンの言葉が決め手となり、こういう形で二手に分かれることになったのだ。気のせいかカノンのやつ、何かと俺とレイを近づけようとしている気がしてならないんだが……。


「ねえ本当にいいの? あたしは別にひとりでもいいよ。賢太とカノンが別々に行動する必要ある?」


 きっと申し訳なさが強いのだろう。レイがしきりにそう訴えていたが、カノンが頑として首を横に振るのだ。


「レイちゃん、家族を見つけてください。きっと、それがこの世界にレイちゃんがいる理由につながってるのかもしれませんよぉ? 大丈夫、賢太さんがいればすぐです。なんたって一番年上ですから!」


 年って関係ある? ……いや無くはないかもしれないが、俺だって人捜しなんてしたことないよ?


 だがまあ、そんなこんなでレイの生まれた街に続く国道の途中、分岐路にさしかかるところでカノンと一旦分かれて行動することになったのだ。



「そういえばカノンは免許持ってないんだよな? ……また自転車で移動するのか?」


「えへへ、実はいいものを思いついたんですよぉ。あ、そこにある電気屋さんの前で停めてもらえますか?」


 カノンが指差したのは大手電気チェーン店だ。

 車を停めるとカノンがいそいそと店の中に駆けていき、しばらくして戻ってきた。


「じゃーん! これでーっす!」


 ……なるほど。思いついたというのはこれか。

 カノンは電動キックボードに乗って店から出てきたのだ。


「これなら免許はいらないですしぃ、すいすい移動できますよぉ?」


 免許いらないんだっけ? 種類によっては必要だった気もするが……。

 にしても電動キックボードは自動車同様できちんと動くんだな。移動に必要なものであれば電気でも使えるってことか。


「建物が多いエリアならかえって動きやすいかもな」


「そうですよねぇ? 来る途中これに乗ってる人がいたので思いついたんですよぉ? これで自転車よりずっと楽に移動できますぅ。えへへへ」


 もっと早く思いついても良かったのでは?……という言葉を飲み込み、とりあえず微笑みながら頷いておく。


「じゃあカノン、なるべく早く追いつくよ。だから気をつけて」


「ごめんね……カノン。あたしのために……」


「大丈夫って言ったじゃないですかぁ。レイちゃん、家族見つかると良いですねぇ?」


 カノンがよしよしとレイの頭を優しく撫でた。再びカノンをひとりにさせてしまうのは気が引けるな……。


 幸いカノンの位置情報はいつでも確認できる。電話など便利な道具は使えないけど、相手がどんな状態かその動きからある程度察することは出来るのだ。何か様子がおかしければ急いで駆けつけることだってできるだろう。


「それじゃあ、賢太さん、レイちゃん。仲良くしてくださいねっ。ふふ」


 最後に意味深な笑みを浮かべながら電動キックボードに乗りカノンが去って行く。


「じゃあレイ、行こうか」


「うん」


 レイと顔を見合わせる。彼女のためにも早く家族を見つけてあげたいが……さて、どうしたものか。初めての人捜しに頭を悩ませつつ、車を発進させた。


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