三人目の仲間

 カノンは俺のいる銀行に向かって歩いてくる。

 どうして居場所が分かるのかというと、互いの位置が地図上に表示されるからだ。時間の止まった世界でGPS代わりとなるこの目印のおかげで、相手がどこにいても合流することができる。大変便利な機能なのだ。

 もっともカノンと出会うまでは彼女の位置が表示されることは無かった。お互いを認識した段階で地図上に相手の位置を知らせる緑色の点が浮かび上がったのだ。


 だから他の協力者がいることも否定は出来ない。出会うまでその存在を確かめる方法は無いのだから。


 そんなカノンだが真っ直ぐこちらへ進んでいる。地図などなくても目視出来るくらい近くまで来ているのだ。そしてカノンのいる方へ向かうレイ。彼女もまた時間の止まった世界で動ける希少な存在だが、彼女はついさっきまで金庫破りをしており、俺たちの捕捉対象だった。それがどうして普通に動き出せるのか……本当に分からないことばかりだ。


「ぎょっっ!! ちょ……あなたはっ……!?」


 カノンの声がこちらまで届いた。いよいよ出会ってしまった。さて、どうしたものか。俺は慌てて彼女たちのもとへ駆け寄る。


「へえ、あなたが賢太の協力者? 女の子なのね」


「け、賢太さんを知ってるんですか? ……というかあなたも女の子ですよねぇ? しかも私よりお若いのでは??」


 そんなやりとりをしてるところに割って入る。


「カノン! ……これにはワケがあって」


「賢太さん……。私がいない間に彼女と何をしてたんですか!?」


 はい?


「もう浮気ですか。……しかもこんな若い女子と! へぇー!」


 浮気も何も俺と君の間には何もありませんが……? というか俺たち以外の人間が動いていることには驚かないの?


「もしかしてあなたたち恋人? 心配しなくてもあたしとこの人は何もないよ。だってさっき会ったばかりだし」


「本当にぃ?」


「……カノン。誤解されるようなことは何もないって。というか君とも別にそんな関係じゃ……」


「賢太さん!」


「な、何?」


「……私言いましたよね? 末永くお願いしますって」


 そういう意味じゃないだろ……。はあ、もういいや。面倒……。


「……えーと、彼女はレイ。言ってた通りついさっき出会ったんだ。レイ、こちらはカノン。先日から一緒に行動してる」


「よろしく。もしかしてあなたたちも知り合ったばかりなの?」


「そうだね。俺と出会う前カノンは一年間も時間の止まった世界をひとり旅していたそうだけど」


「一年!? そりゃさぞ退屈ね」


「はぁい。だから久々に誰かと話せて幸せですぅ」


 カノンが答えるとレイが呆れたような顔で俺の耳に顔を寄せる。


「ねえ賢太。この女……結構な天然じゃない?」


「会ったばかりなのに分かるの?」


 レイの言葉には俺もわりかし同意だ。


「だって雰囲気というか、話し方がもう……」


「ちょっと……そこ何をこそこそしてるんですか!?」


「「いや、別に」」 思わず二人声をそろえた。


「あやしいぃ……それにレイさん、でしたっけ? あなたはこの時間が止まってからどれくらい経つんですか?」


 俺にもしていたあの質問か。


「ついさっきよ? まだ15分くらいかな」


「ほぅわっ! ちょ、ちょっと離れてもらえますか……」


 いきなりの警戒モード。極端だなぁ。


「いきなり何なの……?」


 レイが首をかしげるのも無理ないか。


「賢太さん、か、彼女とは一体どこで会ったんです?」


 それに答えるとますます警戒しそうだな。どうしよう。


「あたしが答える」 俺の思惑をみすかしたようにレイが言った。


「あたしは犯罪グループの一員よ。銀行で金庫破りをしていたところを賢太に見つかったの」


「はぇ……? き、金庫やぶり!? 思いっきり犯罪じゃないですか!」


「だから犯罪グループだと言ったでしょ? ほかの仲間たちは賢太の手で消されたけど、なぜかあたしだけは無事だったの」


 俺の手で消されたって言い方は気になるけど……でも、確かにその通りか……。


「……じゃあ、あなたは犯罪者じゃないってことなのでは?」


 カノンが首をかしげながら言った。


「あたしは消された連中の仲間だよ? 普通に考えて犯罪者だと思うけどね」


「でも捕捉の対象になってないんですよね? しかも私たちみたいに動ける。……もしかして嫌々犯罪に加担していたとかですか!?」


「嫌々ではないわ。好んで泥棒をしていたつもりはないけど、てっとり早く金になるならどんな仕事でも良かったし」


「なるほどぉ」


 ふむふむとカノンがうなずく。何を考えているのか分からないが、レイへの警戒心はいくばくか薄らいだようだ。


「ねぇ……そろそろ好きに動いてもいい? せっかく珍しい体験をしてるんだから、あたしも消されちゃう前に色々見て回りたいのよ」


「それもいいけど、俺たちは隣県に向かうんだ。ここでの仕事は終わったし。だからレイも一緒に来ないか? 好奇心を満たすならそこでも構わないだろ?」


「賢太たちと一緒に……?」


 レイが考え込むように腕組みをした。


 犯罪グループに属していたレイを野放しにする不安も多少あったが、それよりも十代の女の子をひとり置いてきぼりにするのは大人としてさすがにどうかと思い、思わず声をかけたのだ。


「まあいいけどね。一人でいたんじゃすぐに退屈しそうだし。そっちの女の子……カノンだっけ……彼女はいいの? あたしのこと警戒しているようだけど」


「賢太さんが言うならいいかな。それにあなたは犯罪者だからねっ、私たちが責任持って見張ってないと!」


 そこまで責任持てるかどうか分からないけどね……俺たちは警察ってわけじゃないし……。


「はいはい。まあいいわ、じゃあ行きましょう。でもあなたたちまさか歩きじゃないわよね? 何ならそのへんから車を盗んで来ようか?」


 倫理観が低い……。


「車はあるから大丈夫。それにこの世界で物を盗むことは出来ないよ。きっちり自分の貯金から引かれるからね」


「……貯金から引かれる? 何それ?」


 俺にも分からない。……本当に何だそれと思う。


 俺たちが見ているウインドウを見せてやれれば納得を得やすいのだろうが……。レイには見ることは出来ないようだ。イレギュラーな存在だから見れないのか、それとも見る方法にまだ気付いていないだけなのか。


 停めていた車に戻ると、隣県に向かうべくエンジンをかけ車を発進させる。

 

「言っとくけど、あたしは賢太みたいに犯罪者を消すことは出来ないわよ? 地図も出てこないし。見てるだけになるからね、怠け者だなんて文句言わないでよ」


「分かってるよ。そこはレイに期待しない」


「期待されないのも寂しいけどね」


 じゃあどうしろと……。


「もしかしたらレイちゃんも地図開けるかもねぇ。自分のクセになってる動きと連動してるのよ?」


「クセ?」


 カノンは耳たぶをこする。俺は指を擦り合わせる。といった説明をする。


「そういうクセね? あたしは何かあるかな?」


「無理に探さなくても、必要があれば自然と見えるようになるよぉ?」


「かもね」


 何の気なしに三人目の協力者が欲しいなんて考えていたけれど、レイがそうなんだろうか? だとすると俺の考えは時間を止めた存在に筒抜けということか……?


 それはそれでプライバシーってもんが無いんじゃなかろうか……。

 ともかく不思議な出会いだが、レイが旅の仲間に加わることになったのだ。旅は賑やかなくらいで丁度良い。三人がうまく協力し合えればさらに効率よく進めるだろうな。

 よっしゃ、ひとまず進もう。

 

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