第12話 なんだかんだ

なんだかんだあれから3ヶ月が過ぎた。

冬季のピークは過ぎ少しずつではあるが暖かくなってきた。

しかし雪はまだまだ積もっており踏みつけるとザクザクと小気味良い音を鳴らす。

ジールも昔やったように村の子供達がこぞって雪を踏んで遊んでいる。


「う〜ん、今日も良い天気だ!いってきま〜す!」


朝の日の光を浴びながら背伸びをすると、いってらっしゃいの返事も聞かずに家を飛び出して行くジール。


「あっ!こらジール今日は農…って行っちまったよ」

「ふふっ日に日にあなたに似てくるわね」

「おぉい、そりゃないだろ?君だって昔はやんちゃなお姫様だったじゃないか」


ミリアの皮肉に肩をすくめながら答えるカールズ


「ならジールは私達の子で間違いないわね」

「違いない」


肩を抱き合い息子の背中を眺める2人、今日はナイフもDOGEZAも無しのようで、なんだかんだ仲の良い夫婦だった。



あれからジールは秘密の洞窟へと通っている。

本当であれば毎日行きたいのだが家の手伝いがあるし、毎日通っていては両親に怪しまれるので週2回ほどにしている。

ちなみにソレイユの食料はジールが運んでいるのではなくソレイユが自分で取って来ている。

ソレイユ入居の次の日にジールが様子を見に行くと、洞窟の中に骨が散乱しており明らかにジールの置いていった鹿よりも大きい動物の骨があった。

どうしたのかと聞いてみるとソレイユは胸を張り翼を広げてドヤ顔を決めた。

それ以来ジールは小さな小瓶に家からくすねた塩を入れて秘密の洞窟へと通っている。


※※※※※※※※


「ソレイユ、僕だよージールだ」

声を掛けながら洞窟の奥へと入っていく、また新たに捕まえた動物の骨が地面に散乱しているので骨をまたぎながら進んで行く。


「本当に良く食べるなぁ、また骨を埋めに行かないと」


しかし、いつもの寝床まで来てもソレイユが見当たらない。


「あれ?ちょうど狩にでも出てるのかな?」


そう思い辺りを見回すジールだが、なにやら洞窟のさらに奥で物音がするのに気が付いた。

物音のする方へと進んで行くとソレイユを発見した。

だが何かおかしい、ソレイユはジールにお尻を向けたまま踏ん張っている。

良く見ると肩の部分まで壁へと入っていて身動きが取れなくなっているようだった。


「あはははっ!何やってるのソレイユ、もう君の大きな身体じゃあそんな小さな穴から外へは出られないよ」

「ガァルル、ガァガウ!」(うるさいな、たすけろ!)


ソレイユはこの3ヶ月で急成長を遂げていた。

ジールの膝ぐらいしかなかったが今やジールの胸程までに大きくなり

頭から尻尾までの全長では3mを超えている。

鱗も艶が出て見る角度によってはオレンジから真紅へと鮮やかな輝きを放っている。

しかし未だ空を飛んでいる所を見た事はなかった。

ひとしきり笑い終えるとソレイユの救出へ向かうジール、どうやら頭のツノがつっかえて抜けなくなっていた様だ。

ジールはつっかえていた部分を触って確認するとゆっくりとソレイユの首を引っ張った。

ジールの引っ張る力に合わせてソレイユも後ろへと下がっていく。


「ほら抜けたよ」


自分の首の調子を確認する様にブルブルと首を振るソレイユ


「…グルゥ」(…ありがとう)

「ぷぷっ!それにしても穴にはまって抜けなくなるドラゴンなんて!」


ソレイユの間抜けな姿を思い出してまた笑い転げるジールだが突如上から炎が降りかかってきた。

本気では無いがソレイユの吐いた炎はジールの髪を少し焦がす程度には十分だった。


「あつっ!何するんだよ」

「フンッ!」(ふんっ!)


ジールの抗議の声は無視して鼻を鳴らすとソレイユは歩いて行ってしまう。


「ご、ごめんって笑って悪かったよ」 


尚も無視である。


「あ、そうだ!ほら塩を持って来たよ、これで機嫌直してよ」


ジールは懐から溢れないように麻倉ヒモで縛った小瓶を取り出した。

するとソレイユはまた鼻をフンッ!と鳴らして洞窟の出口へと歩いていく。

もうジールにはしょぼくれて後をついて歩くしかできる事はなかった。


明暗の差で目を細めながら洞窟を出た。

溶け始めた雪をザクザクと鳴らしながらソレイユの後ろを歩いて行くと急にザクザクと音が鳴らなくなった。

とゆうか首が絞められて苦しい。

しっかりと目を開けてみればジールはソレイユに首元を噛まれて持ち上げられていた。


「ゔぉい、ぐるじぃ」


そのままフワッと持ち上げられるとソレイユの背中に乗せられる。


「うふふぅ、ありがとう」


ニヤニヤと気持ち悪い笑いをしながらソレイユの首へと抱き付くジール

その瞬間ソレイユは猛スピードで走り出すがいつもより顔周りが赤く見えたのはジールの気のせいであろう。

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