第11話 かぞく

その後、ソレイユを秘密の場所に残しイルナ村へと帰ってきたジール


ジールとしては色々と世話を焼きたかったのだが、あれこれと世話を焼き過ぎてウザがられてしまったらしい。

最終的には襟首を噛まれて引き摺られて外へと放り出される始末だ。

ジールとしてはもっと色々してあげたかったのだろうが、大丈夫だから早く帰れと言わんばかりに翼をばたつかせてシッシッと追い払われてしまった。

しかたないのでまた明日来る事を伝えてジールは一度イルナ村へ帰る事にしたのだ。


ちなみにジールが狩った鹿は洞窟に置いてきた。

これで初めての狩は獲物無しとなってしまったが、初めての狩で何も獲れない事は少なくはない、だが、一生懸命教えてくれた父親の事を思うと少しだけ気が重くなるジールであった。


※※※※※※※※


イルナ村へと帰ってきたジールが目にしたのは家の前で白目を向いて仰向けに倒れている自分の父親の姿だった。

しかも近所の子供達に木の棒で突かれたり、胸の上に雪を積んでおっぱいを付けられたりしている。


父親の威厳がマイナス値に振り切れていた。


そんな父親だった物へ近づくと顔をペシペシ叩きながら呼びかける。


「父ちゃんなにやってんだよ」

「はっ!」


おっぱいを鷲掴みしながら飛び起きるカールズ、なぜ鷲掴みしたのかは謎である。


「ジール戻ったのか、ところで俺はこんな所で何してるんだ?」

「それはこっちが聞きたいよ」


はぁ…とため息を吐きながらジールは父カールズを起こした。


「どうせ母さんを怒らせて放り出されたんでしょ?」

「あっ…」

「やっぱりな、もっと注意して行動しないといつか母さんに愛想尽かされるよ」

「うっ…お前にそんな事を言われる日が来ようとわ」


注意して行動しろなどとどの口が言うのかは分からないが、得意顔で説教をする息子と図星を突かれてたじろぐ父親がそこにはいた。


「そ、そんな事よりジール、お前がなかなか帰って来ないから俺も母さんも心配してたんだぞ」

「うん、それは心配かけてごめんなさい、でも俺も色々あったんだよ」

「まぁ、とりあえず母さんに顔を見せて安心させてやろう、話しはそれからだ」


カールズはジールの背中を押して家の中へと入っていく


「ミリア!ジールが帰…」


タァーーン!!


奥の部屋から飛来した何かが玄関の枠に突き刺さった。

カールズが視線だけで確認するとそこには果物ナイフ程の大きさの刃物が自分の目線の位置に刺さっていた。


「母さん!」

「ジール!?良かった無事だったのね!」


ジールとミリアはお互いに駆け寄り抱きしめ合う、感動の親子の再会だ。


「あぁジール、母さん心配したのよ、ケガなんかはしてない?」

「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

「あなたが無事なら良いのよ、そうだお腹減ってるでしょ?暖かい食べ物を持ってくるから暖炉の前で待ってなさい」


そう言うと台所の方へと行ってしまうミリア、1日会わなかっただけなのに凄くホッコリと暖かい気持ちになったジールが後ろを振り向くと実の父が床に手足を付いてうずくまっていた。


「父ちゃん何やってるの?」

「これは古くからある最上級の謝罪の構え、DOGEZAだ。」


ジールにとって初めて見る構えではあったが、父の背中を見ているとなんだか寂しい気持ちになってくるので本気でやめて欲しかったが、夫婦間の問題なのでジールは口出しするのをやめた。


ジールは部屋の中央部にある暖炉へと向かった。

暖炉として使えるが実は釜戸の方が近い、いつも奥の台所で下ごしらえをした材料を持ってきて暖炉の上に空いた穴で鍋などを使い調理をしている。


そんな暖炉の前で、「あぁ〜あったまる〜」などとジジ臭い事を言っているとミリアが鍋を持って来た。

その途中で絶対にDOGEZAをしているカールズが目に入っているはずなのだがガン無視である。


「昨日の夕飯に出すはずだった鴨肉のシチューよ、すぐに温めるから待っててね」

「僕の好きなやつだ、母さんありがとう」

「お祝いの為に作ったんだけどね、でもジールが無事に帰ってきてくれただけで本当に母さん嬉しいわ」


また強く抱擁するとジールは小さい声でミリアに尋ねた。


「父ちゃんはあのままでいいの?」


ちょっと寂しげな顔を作りミリアを見上げながら尋ねるジール。


「もぅ!ずるいわね…はぁ…あなた?」

「はい!」


ジールの攻撃に思わず抗議の声を上げるミリアだったが、敵うはずもなくため息を吐くと夫を呼んだ。


「台所の水がめが無くなりそうだわ、あと今日はお風呂に入るから水を貯めておいて」

「はい!直ちに!」


何故かミリアに敬礼をすると急いで家から出て公共の井戸へと走っていった。

水がめと風呂の水を同時に用意しろなどまさに鬼畜の所業だが元冒険者の体力があればやってやれない事はないだろう。

猛ダッシュで走っていく父親の背中を見てクスクスと笑う母と子であった。

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