第10話 ほのおのえいぎょう
そこはイルナ村から徒歩30分、駅無し、風呂無し、トイレ無し、家賃無しのワンルームであった。
というか洞窟だった。
「どうですか?なかなか綺麗な所じゃありませんか?」
何故かドラゴン改めソレイユに対して営業トークをしているジール。
ソレイユが気に入らなければ出て行ってしまうかもしれないので気に入られようと必死なようだ。
対するソレイユは洞窟内を黙って眺めていた。
その様子から満更でもないと感じ取ったジールはここぞとばかりに物件を推しにかかる。
「ここの壁からは綺麗な雪解け水が湧いてきますし、僕が持って来た樽に水を溜めておく事もできます!」
「さらに!見て下さい、この藁のベット!僕が自分作したベットでふんだんに藁を使っているのでふかふかですよ!」
「…」(…)
「えっと、さらにさらに!」
「キュキュ!」(ねぇねぇ!)
「え?」
「キュキュウ?」(あれなに?)
「ん?もしかしてあの氷の事が知りたいの?」
どうやらソレイユはジールの話にはまったく興味を示さず、洞窟内を照らしている天井に興味があったようだ。
それもそのはず洞窟内は火を焚いている訳でも無いのに明るいのである、その事に気付き上を見上げれば天井を氷が覆い尽くし洞窟内へと太陽の光を届けていたのだ。
ジールの問いかけにコクコクと頷くソレイユ
「あれは氷の魔法を固定しているんだよ、いやーかなり大きめの氷を張ったからめちゃくちゃ大変だったよ」
要領を得ないジールの答えに首を傾げるソレイユを見て慌てて補足しだすジール。
「あっごめん、えーっとね、僕のスキルに【固定】というスキルがあってね、そのスキルの効果で氷魔法を固定して溶けないようにしてるんだよ」
そうこの世界にはスキルが存在していた。
しかし、レベルやステータスといった物は存在しない。
スキルとはその人が持つ技術や能力を見えるようにしただけの物だ、なので【ドロップ率2倍】やら【状態異常無効】などといったチートスキルは人類には獲得不能である。
筋肉を鍛えた者には【剛力】
足が速い者には【瞬足】
火の魔法が使える者には【火魔法】
努力しだいでどんなスキルも取得可能だが、できる事が見えるようになるだけで、何もしていないのにスキルを覚える事は無いし、できなくなればスキルは消える。
なのでこの世界でのスキルは履歴書程度の扱いである。
しかし、稀に生まれつきスキルを所持して産まれてくる者がいるのだが、ジールがそうだった。
ジールの持つスキルは【固定】魔力を使い起こす事象を固定して留める事ができるスキルである。
そのスキルを使い氷魔法で天井を作ったらしい。
説明中のジールのドヤ顔が多少ムカついたのかソレイユはジールに向かい軽く炎を吐いた。
別にジールを焼こうとして吐いたわけでは無いが炎を吐かれたジールはあわてて避けていた。
「なっ!?なにするんだよ!やめろよ!」
当然の抗議をするジールだかソレイユはそっぽを向いて鼻を鳴らした。
「ねぇ、さっきからどうしたの?そんなに僕の付けた名前が気に入らなかった?」
「…」(…)
「はぁ…小さい頃に母さんから聞いた物語に出てくる登場人物から取った名前なんだけどなぁ」
「凄くカッコいい騎士の名前なんだよ、北の地で人々を導き悪しき魔物を倒して国をお越したんだ、後で母さんに聞いたらソレイユって名前は遥か遠い異国の言葉で太陽を意味するって言っていたんだ、だからお前に合うと思ったんだけど…」
そう言って
あんなに可愛かったドラゴンに冷たくされたのが
すると右手に温かい物が触れた、ソレイユがジールの手を鼻先でツンツンと突いていた。
ジールが視線を向けるとソレイユは何度も頭を上下に動かしていた。
「?、もしかして謝ってるの?」
ちょっとバツの悪そうな顔でコクコクと頷くソレイユ
「でもなんで急に冷たくなったの?あっ、いや全然気にしてないよ、ただ何があったのかと思って」
ジールの質問に答えるように何やらキュッキュキュッキュと喋り出すソレイユであったが、まったくジールには理解できなかった。
『か、可愛い…』
むしろ聞いていなかった。
「うん、うん、そうかぁ分かったよ」
とろけた笑顔で頷くジールを見たソレイユは全てを悟り大きくため息を吐く。
いい加減ジールという人物が理解できたようで何よりである。
またソレイユは息を吸いジールに向かって炎を吐く、それを慌てて避けるジール
「なんで!?」
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