第9話 とうちゃん…
『おかしい、絶対におかしい…。』
先程まで意気揚々と歩いていたジールだったが今は後ろをチラチラと見ながら気まずそうに歩いていた。
それもそのはず、後ろから鋭い視線を受け続けいつまでも鼻歌混じりに歩ける者などそうはいないだろう。
そう、先程行われた名付けの後からドラゴンがジールに対して警戒心を露わにし距離を一定に取りながらずっと睨んでいるのだ。
流石のジールもドラゴンの視線に気付き不穏な空気を察してルンルン気分で歩く事ができなくなっていた。
『え…名前のせい?もしかしてソレイユって名前が気に入らなかったから?』
突然のドラゴンの豹変に困惑するジールだったが秘密の場所までもうすぐという事もあり、とりあえず案内してから聞いてみようと考えていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「カールズ、あの子は本当に大丈夫なの?」
不安と疑いの眼差しでといかける女性は金色の美しいロングヘアーをした女性だ、白いシャツに青いロングスカートといったこの辺りでは普通の格好をしているが、スカートを留めているベルトのおかげでキュッと絞られた細い腰とスラリと長い四肢が彼女を普通とは評価しずらくしている。
もちろん顔も整っているし、胸は説明するまでも無いだろう。
そんな美女に話しかけられているにも関わらず『踏まれたい…』などとアホな事を考えながら彼女の足をボーッと見つめているのはジールの父親のカールズだ。
ソファに寝転がりながらボーッと自分の足に視線を落とす夫に呆れたように大きくため息を吐く妻のミリア。
さっきまで床拭きに使っていたであろうボロ布を大きく振りかぶるとガールズの顔面に思い切り投げつけた。
「ブホッ!?」とまぬけな声を出して覚醒するカールズ、続けて襲ってくるボロ布から放たれたくさい臭いに咳き込む。
「あなた聞いてるの?」
ボロ布を振り払い咳き込みながら上を見上げると笑顔という仮面を貼り付けた鬼がそこに立っていた。
「ぶぇほっ!ごぉほっ!き、聞いてる、ちゃんと聞いてるよ、ジールの事だろ」
本当は聞いていなかったのだが、直感でジールの事だと思い至りギリギリで危機を回避するカールズ。
流石元一流冒険者である。
「ハァ…分かってるなら、どうにかしようとは思わないの?」
母親なら当然の主張である。
「え?なんで?」
父親として最低の返答である。
しかし、これには彼なりの理由があった。
実はカールズの父親も冒険者だったのだ、その為カールズも幼少期は父親に鍛えられてきた。
それはもうジールの訓練がおままごとの様に感じるほどに。
毎日のようにボロボロになるまで格闘訓練を行い、腕が折れても片腕で対処できるようにとボコボコにされ
夜に寝ていても気配を感じろと言われて殴られてきた。
そんな超スパルタな環境で育った為にカールズは息子には絶対にそんな事はしないと誓っていたのだが、超スパルタな訓練を受け過ぎてきて普通の基準が少しズレてしまっていた。
北方領の為、危険な生物が少ないので格闘訓練は程々に教えていたのだが、サバイバル術はしっかりと教えていた。他人から見ればやり過ぎなくらいに。
なのでカールズは2〜3日ならば放っておいても大丈夫だろうという自信があったのだ。
実際ジールは不注意で遭難したものの、冷静な判断で一命を取り留めていた。
しかし訓練に参加していた訳でもないミリアにとってカールズの言葉は絶対に押してはいけない起爆ボタンであった。
その瞬間カールズは夢を見た、愛する妻の顔がオーガよりも恐ろしい憤怒の顔になったかと思えば、シルクのように美しい足が天を昇りそして自分の顔面に振り下ろされる。
そんな彼の願いをそのまま叶える夢を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます