第8話 きみのな

あれからジールとドラゴンは洞窟を出てイルナ村へ向けて歩いている。


ジールの肩にはロープで縛られた小ぶりの鹿が担がれていた。

ジールが投げたあの鹿はスノウベアーには見向きもされなかったらしい。というか何故自分に向かってあれ程の殺意を向けて来ていたのかジールには全く分からず首を捻るばかりであったが、せっかくの獲物を置いて行く理由など無いのでしっかりと持って帰る事にしたのだ。


そんな色々な体験をして一回り大きく成長したような気がするジールはやっとイルナ村へ帰れるのだが、またも大変な事に気付き1人焦っていた。


『どうしよう、勢いで「今日からうちの子だ!」なんて言っちゃったけど、ドラゴンなんて連れ帰ったら父ちゃんと母ちゃんになんて言われるかな…』


小動物を連れ帰る度に言われていた両親の言葉がわずかばかりでも届いていたようで何よりである。


しかし気付くのが遅い、遅過ぎた。

もう村の入り口は目と鼻の先まで迫っている、そこまできてやっと怒られるかもしれないとゆう事に気が付いたジール。

ちらりと後ろを見るとルンルンな足取りで歩いている小さなドラゴンがいた、キュッキュッと鼻歌を歌いながら、こころなしか首を前後に揺らしリズムを取っている様にも見える。


『ダメだ、こんなに嬉しそうしているのに「やっぱり怒られるからさようなら」とは言えない、あとメチャクチャ可愛い!』


ドラゴンの可愛さを再認識しただけであった。

しかし実際のところこのまま連れ帰れば大混乱待った無しである。

村に入った瞬間に悲鳴が鳴り響き今度は男達の野太い怒声と武器を持ち出す音が鳴り響くだろう。


しかしこんなに可愛い伝説級の魔獣であるドラゴンをうちの子にできるのだ、こんなチャンスは人生に一度きり、いや十回やり直しても来ないかもしれない。


そんな葛藤をしながらその場でグルグルと周っているジールを見ながらドラゴンは首を傾けていた。

突然ピタリと止まったジールはドラゴンに近寄り目線をドラゴンに合わせるように両膝を付いた。

「ごめん!やっぱり村の中には連れて行けないんだ、村の人が驚いて混乱させてしまったらキミがどうなってしまうかも分からない、だから、ごめん!」


潔い謝罪を選んだジール、ドラゴンに向かって頭を下げて謝っている。

ドラゴンは人語を理解していた、つまり人間と同等の知能があるだろうと思っての謝罪だった。

「キュウゥーン…」

(やっぱりかぁ…)


ドラゴンの顔を見るに残念がってはいるが怒ってはいないようだ。

ジールと目を合わせコクコクと頷くと、くるりと反転し山へと向かってトボトボと歩き出した。


「ま、待って!行く所はあるの?」

呼び止められたドラゴンは立ち止まって振り返り首を左右に振った。


「もし良かったら僕の秘密の場所があるんだ、そこは村の外だし、みんな知らないはずだからそこに住んでみない?」

ジールの言葉に向き直るドラゴン

「綺麗な水もあるし、村からそんなに離れてないから会いにも行けるよ。…塩を持って」


「キュゥイ!?」

(マジで!?)

最後の言葉が決めてだったのかは分からないがドラゴンは花の咲いた様な嬉しそうな顔をした。

一方でジールはなんとも言えない苦笑いだ。


「まぁ、これから仲良くなっていけばいいか、あっ、そういえば名前をどうしようか?」

「キュー」

(あぁー)

「もしかして名前あるの?」

「キュー」

(うーん)

一瞬考えたドラゴンは首を横へ振った。

「そっか、良かったら僕が名前を付けてもいい?」

「キュー」

(うーん)

しばし考えたドラゴンは首を縦に振った。

「やったぁー!絶対に良い名前を考えるよ!」

「とりあえず移動しながら考えよう」


ドラゴンに名付けができる事がよほど嬉しかったのか、飛んでいるかのような軽い足取りで歩きながらオマケに鼻歌まで歌ってジールは上機嫌である。

そんな浮かれたジールの後をドラゴンもトコトコと歩き出した。



***********************************




ジールの後を突いて行くこと3分、すでにドラゴンは後悔し始めていた。


「ドラぞう…」

「ドラきち…」

「ドラすけ…」

「ドラ○もん…」


ぶつぶつと名前らしきものを唱えながらジールは歩いていた。

その後ろを信じられないものを見る様に固まって冷や汗を流している伝説級魔物のドラゴン


それもそのはずである、伝説級のドラゴンの名前が「ドラ○もん」などと付けられようものなら伝説(笑)級ドラゴンに格下げされてしまう。

それだけはどうしても避けたい。


「キュー…」

(焼くか…)


物騒な思考にまで発展していた。しかしそれ程までに「ドラ○もん」は避けたい。


「ドラドラ…」

「ドゴラ…」

「ドンゴラ…」


「キュ!」

(おっ!)


しかし少しだが持ち直してきた。

「キュー!キュー!」

(がんばれ!がんばれ!)


「ドレイク…」

「ドライヤ…」


「キュ!キュキュー!」

(いいぞ!その辺なら有りだ!)


「よしっ!決めた、ソレイユだ!」

「赤くキラキラと輝く鱗が太陽のようだからな!」

勢いよく振り返りながらジールはそう宣言したのだが、宣言された本人はポカーンと口を開けて停止している。


「よし!我ながら良い名前だ!」

自画自賛をしながら1人うなずくジールは、良い名前が出た事に満足したのか、また秘密の場所へと歩きだした。


「キ?……。キュウ!?」

(え?……。なんで!?)

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