第7話 かんゆう

「よしっ!今日からお前はうちの子だ!」

「キュ?」(はぁ?)


突然のうちの子宣言にトカゲも驚いた様に声を上げた。

実はジールには動物収集癖がある、幼い頃から虫に始まり、小鳥、うさぎ、猫など、自分の気に入った動物を拾ってきては両親に叱られる事を繰り返している。


しかし今回のターゲットは見たことも無いような巨大なトカゲだ、何を食べるかすら分からない、無謀としか言いようがないが本人はやる気まんまんである。


「おいで、おいで、怖くないよ〜仲良くしよ〜」


そう言ってしゃがみ右手をトカゲへ差し伸べた。

少し警戒しながらジールを見ていたトカゲだったが、笑顔を向けて手を差し伸べてくるジールを見て少し警戒を解いたのかオズオズと近寄って来た。


ジールは下顎を撫でるように指を滑らせるとトカゲは気分良さげに目を細めてジールに身を任せてきた。


「よしよし、可愛いなぁ〜」


下顎から首、首から背中へと徐々に撫でていく。


「鱗はすべすべしてるけど、結構硬いんだなぁ」


などと感想を述べながら触っているとトカゲの腰の辺りに違和感があった。


「ん?ここだけ感触が違うぞ?」


トカゲはくすぐったかったのかイヤイヤと身体を捩ったその時


バサァッ!

「うわっ!」

「キュィッ!」(うわっ!)


トカゲの腰の少し上の辺りから突如翼が生えた。どうやら翼は一見するとわからないように収納されていたようだった。

トカゲ本人も何故か驚いたようだが、今は翼をバタつかせては、収納したり出したりして遊んでいる。


「これって翼だよな、てことは…」

「キュ?」(ん?)

「ドラゴン…?」

「キュイーキュ?」(なんだと思ったの?)

「すごい!初めてみた!本当にいるんだ!」


興奮した様子のジールを見て首を傾げるドラゴンだったが、それもそのはずドラゴンは実在するとは言われてはいるが、滅多に人里まで来る事はなく、人などでは入れないような未開の地に生息しているとされている。

よって目撃例も少なくまさに伝説の生物とされ、物語などに恐ろしい怪物役として登場する程度の存在だった。


そんなドラゴンに出会えたジールの興奮はMAXである。キラキラと輝く目をドラゴンに向けすごい!すごい!と連呼している。


そんなジールに飽きたのか付き合っていても無駄だと思ったのか、スノウベアーへと歩いて行くドラゴン、死体の前で止まるとしばらく熟考、その後死体を引っ掻き始めた。


「ん?どうしたんだ?食べるのか?」


ジールに振り向きコクコクと頷くドラゴン


「え?俺の言ってる事解るの?」

「キュキュウ」(解るよ)


またもコクコクと頷くドラゴン、どうやらジールの言葉が理解できているらしい。


「すごい!ドラゴンにはそんな能力まであるんだ!」


またも興奮するジールであったが、ドラゴンは呆れた様な顔でまたスノウベアーの死体を引っ掻き始めた。


「でも、スノウベアーは体毛が邪魔だから解体しずらいんだ、まず火を起こして焼かないと」


と父親に教えられた解体方法をドラゴンに語るとドラゴンは目を閉じて少し考え、何かを閃いたかのように目を開くとスノウベアーに向き直った。

そして息を吸い込み、吐く、吸い込み、吐くを繰り返している。


「何してるの?…うわっ!?」


ジールが疑問を口にした途端にドラゴンの口から火炎放射器の様に炎が発射された。

ドラゴンはその炎で満遍なくスノウベアーを焼いていく。

ジールは唖然とし尻もちを付いて固まっていた。

スノウベアーがいい感じに焼けたのだろうドラゴンは火炎放射を止め、スノウベアーの臭いをスンスンと嗅いでいる。

そして勢い良くスノウベアーの肉に噛みつき食べ始めた。

ただ呆然とその光景を見つめるジールをよそに、ガツガツとスノウベアーを食べている。

呆然としていてジールは気付いていないが明らかに自分の体積よりも食べている、異常だ。

もうスノウベアーの3分の1を食べてしまっているのに平然としている。


「ねぇ、コレいる?」

再起動できていなさそうな顔で塩を取り出してドラゴンに尋ねるジール。

塩は高価なのでいつも少量を小瓶に入れ懐に入れて持っていたのだ、

ちなみにこの辺りで言う塩とは岩塩の事を指す

北方領はアルヌス王国でも1番内陸部にあり海は無い、したがって岩塩の方が主流なのだ。


ジールより差し出された塩をドラゴンはスンスンと匂いを嗅いだ後、コクコクと頭を降った。

それを見たジールは立ち上がりさっきまでドラゴンが齧り付いていた所に少量の塩を振ってやる。

ドラゴンは塩が付いた肉を齧った、その瞬間ドラゴンの身体がビクッ!っと震えると凄い勢いでジールへと襲い掛かってきた。

そのままドラゴンに押し倒されるジール


「いでぇっ!」

ドラゴンに馬乗りにされている状態だ。

「なにをするんだ!」

いきなりのドラゴンの行動に抗議の声を上げる


見るとドラゴンは輝く目をジールに向けてキュイキュイと何やら訴えていた


「?、もしかして塩が気に入ったのか?」


ヘビメタバンドの様に凄い勢いで首を振るドラゴン、ドラゴンヘッドバンキングである。


「悪いけど塩は高価だからいっぱいはあげられないんだ」


シュンと頭を垂れて落ち込むドラゴン、ブルードラゴンである。


「でも、少しずつならなんとかするよ、だからうちの子にならないか?」


パッと花が咲いたような顔になりドラゴンスマイルを見せたかと思えば再びドラゴンヘッドバンキングをキメるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る