第6話 どうも

スノウベアーの足元に転がってきた物、それは赤くキラキラと光る楕円形の石。


スノウベアーは一瞬、転がって来た物に警戒し、一歩後退した。

しばし石を睨めつけた後、特に危険な物ではないと判断したのだろう、またジールに視線を戻し、一歩一歩進み出した。


その間ジールは仰向けで倒れたまま、後ろへと下がり必死にスノウベアーとの距離を取ろうとしていたが、またスノウベアーに睨まれ硬直した。


もう遊びは終わりだ、とでも言いたげなスノウベアーはフンと鼻を鳴らしたかと思えば大きく前足を振り上げ転がって来た石を踏みつけた


石はガキンっ!と音を立てて地面にめり込み表面に蜘蛛の巣状にひびが入ったが、砕けてはおらず楕円形の形状は健在だった。


それを見たスノウベアーは少し驚いたようだったが、表面のひび割れを見て、まぁいいかっと思ったのか石を跨いでジールの方へと歩き出す。

その時すでにジールは失神していた、今までもギリギリの精神状況だったのだが、先程の音と衝撃で完全に精神の限界を超えてしまったらしい。


今はただ半目を開けてぐったりとしてピクリとも動かない。


フスゥー、フスゥー、フスゥー


スノウベアーの息が顔にかかりジールの髪が呼吸に合わせて激しく揺れるがジールが動く事はない。

スノウベアーはその大きな口を開き酷い口臭を撒き散らしながらジールの頭を噛み砕こうと近づくと突然


ピィィィィーーーーーーーーー!!


スノウベアーの背後からけたたましい音が鳴り響く、あまりの突然の出来事にビクリと身体を震わせ振り返るスノウベアー、そこには先程自身が踏みつけた石から大量の蒸気の様な物が勢いよく噴き出していた。


なんなんだコレは?


警戒心を露わにして凝視するスノウベアーだったがしだいに蒸気は勢いを無くして止まった。

するとキラキラと輝く赤い色が濃くなり光りも強くなる、段々と色も光りも強くなり、赤からオレンジへオレンジから白へと光りが増していった。

この見た事も無い異様な光景にスノウベアーは身を屈め恐怖し防御姿勢をとった、とその時


ドガァーーーン!!!


光りの塊と化した石は爆発を起こし弾け飛んだ。


「!!!」


その光りと音で一瞬で起きるジールであったが起きた瞬間に何かでかい物が覆いかぶさり潰される。


「ぶへぇ」


またも間抜けな声を出したジールだが、状況が全く飲み込めずただ何かに潰されて身動きが取れず苦しんでいた。


「くるじぃ、たずげて」


周りではガラガラと岩の崩れる音が響く、自分も岩の下敷きになるのでは?と思ったが偶然なのか自分に岩が落ちてくる事は無かったし、今潰されている物は重いがモフモフしていて岩ではなさそうだった。


しばらくすると崩れる音は止んだが、土煙がもうもうと舞い視界は悪く息苦しい状態だ。


「ゲホッ!ゴホッ!」


圧迫と土煙の二重苦に咳き込むジール、幸いにも胸から上は潰されていなかったので両腕は使えた。なんとかして脱出を試みようと自身に覆い被さる物を押してみるが重過ぎる。


「ゲホッ! クソっ!誰か助けて!」


助けを求めても誰もいない、解ってはいるが、助けを求めずにはいられなかった。

バタバタと手足を動かしていると頭の上に手で持つのに丁度いい岩が地面から突き出ている事に気が付いた。

その岩を右手で掴み身体を引き寄せ、左手で自分に覆いかぶさっている何かを押した。


「ぐぅぎぎぎぃ、どけぇーー!」


全力で身体を引っ張りながら押すと少しずつ身体がズルズルと抜けてきた。

それを感じさらに力を込めるジール、ついには胸まで潰されていた身体が足まで抜け、最後は両手で足を引っ張りなんとか脱出する事に成功した。


「ぶはぁー!!血管が爆発するかと思ったぞ!」


爆発は言い過ぎだがそれくらい全力で押してやっと自由になったジールは自分を押し潰していた物を見る。


「死んでる…よな?」


そこに横たわるのはスノウベアーだった、腹部や胸部などに岩の破片などが深く突き刺さって絶命していた。

もしスノウベアーがジールの前にいなければ串刺しになっていたのはジールだったであろう。


しかしそこで気になるのはいったい何があったのかという事だ。


「それにしてもこれはどうしたんだ?何かが爆発したようだったけど」


ジールは失神していたため、あの石が爆発した事を知らなかった。

辺りを見渡すと、スノウベアーの死体と瓦礫の山くらいしか無い、瓦礫の高さは幸いにも洞窟の半分ほどの高さで済んだ様で瓦礫を乗り越えて行けば外には出られそうだ。

ただ、天井部分はえぐれれており爆発の威力を物語っていた。

「よく洞窟が崩落しなかったな。ん?」

ジールが天井を見上げていた時、足元の瓦礫が崩れた、ガラガラと崩れる石の下に何かがいるらしい。

咄嗟に後ろへ下がり身構えるジール、ただ装備は全て瓦礫の下なので今は解体用のナイフくらいしか持っていないが、無いよりはマシとそのナイフを構えて崩れる石を睨んでいる。


ガラガラガラガラ。

「キュイイィィーー!!」(助かったー!!)


「うわっ!なんだこいつ!」

石の下から出てきたのはジールが今まで見た事のない生物であった。

体長は中型犬程の大きさで、四つ足に長い尻尾がある。

顔は夏に時々見かけるトカゲに似ていたが頭の上に小さいコブが2つある。

全身に鱗を纏っていて一枚一枚は親指の爪程の大きさ、色合いはワインレッドといったところである。

石の下敷きになってもケガをしておらず自力で這い出て来たところを見ると力もあり頑丈そうだ。

「キュィ?」(誰?)

鳴きながら首を傾けるトカゲ

ズキューーーン!!

何か古くさい音がジールの心臓から鳴った気がした。

「か、可愛い…」

自身の胸を押さえながら蕩けた目でトカゲを見つめるジール。

そして彼は1人頷きながら何かを決心したように声を上げる。


「よしっ!今日からお前はうちの子だ!」

「キュ?」(はぁ?)

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