第4話 かりかり
彼は非常にイラついていた。
一昨日から何も食べていない、チャンスはあったが何度も邪魔が入り結局今だに獲物にはあり付けていない。非常に腹立たしい。
スノウベアーの体毛は長く真っ白である。
これは体温を保つ為に長く厚い体毛に覆われている。
白いのは単純に雪と同化する為だ、つまり、スノウベアーの狩りは雪と同化し、気付かずに近づいて来た獲物を襲うという単純な物だ。
しかしコレが恐ろしい、雪の塊だと思っていた物が急に立ち上がり3m以上の怪物に早変わりし、その上鋭い爪と牙と怪力のおまけまで付いている。
さらに巨体に似合わず俊敏な動きをしている。普通の人間なら気付いた時には頭が口に入っているだろう。
だが他の獲物は違う、人間よりも俊敏で勘も良く逃げ足も速い、若いスノウベアーは我慢ができずに初めての狩で獲物を逃す事がよくある、これはスノウベアーあるあるだった。
彼も例に漏れずにスノウベアーあるあるを体験している。それから彼は、ちゃんと獲物が自分の射程圏内に入るまでは微動だにしないようになった。
昨日もちゃんと待った、鹿の群れが少しずつ自分の方へ移動して来ていた。
身体の生命維持活動を最小限にし、呼吸も必要最小限にした、まさに息を殺し鹿が近づくまでその時を待っていたのである。
だが、その時は来なかった、急に一頭の鹿が叫ぶと散り散りに一斉に逃げ出したのだ、彼は落胆した、やっと美味い飯にありつけると思ったのにそれが目前で明後日の方向に消えたのだ、もしかしたら待たずに飛び出していれば1番小さい身体をしていた鹿くらいなら仕留められたかもしれない。
奥歯を噛み締め悔しがっているとそこに1人の人間が現れ鹿達の後を追いかけていった。
彼は理解した、あいつが俺の邪魔をしたんだ。
前にも何人か見た事がある、人間は俺達と同じ獲物を狙い、色々な道具を使い狩りをする。
あいつの頭をすぐにでも噛み砕いて口に広がる血の味を堪能したいがどれほどの脅威か分からない、危険な道具で反撃に合うかもしれない。
そう考えた彼は後を付け人間を観察しスキを伺う事にした。
相手に気付かれない距離が分からない為、見失わないギリギリの距離を保ち我慢強く人間を観察していた。
警戒心が強くかなり頭が良いと言えるだろう、動物としては優秀な種だ。だが、運だけはジールに敵わなかった様だ。
尾行をしていると急激に天候が悪化し、晴々とした天気は、突如として吹雪となった。
しかも見失わないギリギリの距離を保っていた事が仇となり、完全に人間を見失ってしまった。
匂いも吹雪のせいで感じられない。
またしても我慢強いのが裏目に出て獲物を逃してしまった。
この強烈な吹雪では何もできない。
スノウベアーは、近くの大木まで行くと大木を風避けにしうずくまった。
ようは
このジャガ山脈に住む動物なら皆知っている、山に逆らっても得られる物は何も無い。
だから彼は不貞寝を決め込んだ、悔しさと怒りと空腹を抑え込んで。
東の空が間接照明に照らされた様に薄く日が差し始めた頃に心のざわつきを感じ彼は目覚めた。
吹雪は止み、空気は澄んでいる。後もう少し経てば日が昇って来るだろう。
しかし日の光を待たずして彼は起きた、いや起こされた、微かに感じる血の匂いに。
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