第3話 いしとはぐ
「なんだこれは?何かの鉱石か?」
洞窟の中を見回したジールは不思議な物を見つけた。
それは火の灯りを浴びて僅かに赤くキラキラと光っており表面はザラザラとしているが滑らかだ。
大きさはジールが両手で抱えるのがやっとといったところである。
他の岩とは違い丸みを帯びた形をしており楕円のようである。そう、まるで何か巨大な生物の卵の様に。
「デ、デカい宝石とかなら売ったら結構な大金になるんじゃ?」
しかしジールの頭はそんな巨大な卵が存在しいるかもという考えよりも売っぱらった時の金貨の数を考える事に支配されていた。
死が迫っている時になかなかに豪胆である。
「でもこんな重そうな物を持って村まで帰るのは大変だぞ、置いていっても誰かに盗られるかもしれないし、隠しておくか?」
そしてこのせこい考えである。
しかしそれが功をそうした、そのまま放置していたら気付かなかっただろう。
「どこに隠しておこうかなっと、ん?」
ジールはそれを持った瞬間違和感を覚えた。
「思ったより軽いし、すげ〜あったか〜い〜」
氷の彫刻になる寸前のジールにはまさに干天の慈雨、愛おしい恋人の様にジールはそれを抱きしめるとその暖かみが全身に広がるようにじんわりとジールの身体を暖めてくれた。
「なんだこれ〜すげ〜あったかいよ〜あったかいよ〜」
その暖かさはジールから語彙力を奪い、顔面をだらしのない物へと崩壊させた。
ジールはそれを抱えたまま寝床まで戻ると外套を被って踞った。そしてこれまでの疲れからか抱きしめたまますぐに眠りについてしまう。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
翌朝、すっかりと吹雪は止み、キーンとした冷たい朝の空気を太陽が照らし白銀の世界がキラキラと美しい輝きを放っていた。
ジールはまだ寝ている。
謎の物体によって氷漬けにはならずには済んだのだが、暖かくて気持ち良過ぎたおかげで日が昇ってもなお寝ていた。
昨日死ぬかもしれない思いをしたのだ、精神的にも肉体的にも12歳の少年にしてはかなり疲労が溜まっていたのだろう。
しかしそんな油断のせいだろうか、さらなる危機が一歩一歩と迫っているとは、未だヨダレを垂らしたままのジールでは知るよしもなかった。
日が昇ってからしばらく、ジールはようやく目を覚ました。
「ん?へぇ?どこ?ここ」
起きた瞬間自分がどこで何をしていたのか分からなくなったらしい
「あぁ、そうか洞窟の中か…ん?なんだこりゃ」
状況を把握したのも束の間、昨日の卵型の物体に起こった変化に驚いていた。
「こんなだったか?なんだか色が鮮やかになったような、まぁあの時は暗かったし気のせいかな」
気のせいではない。
昨日は僅かに輝いていた部分が赤く色濃くなり心なしか波のような模様まで浮かび上がっている。
明らかに異常ではあるがジールは気のせいの一言で片付けたのだった。
「まぁいいや、それより外はどうなったかな?」
なかなかの問題を一蹴した後、背伸びをしながらよたよたと出口まで歩きだす。
洞窟の入り口の近くには昨日仕留めた鹿が寝かされていた。
昨夜の冷え込みによりほぼ冷凍状態になっているが置いていた雪の上は血が滲んで赤く染まっている。
ジールは冷凍鹿の状態を少し確認した後、洞窟を出て天気を確認する。
「お、良かった!これなら帰れる!父ちゃんも心配してるだろうし早く帰らないとなぁ」
吹雪が止み帰れる事に安堵するジールであったがその視界の端には奇妙な物が見えていた。
「ん?雪が揺らめいてる?」
目を擦り再び目を凝らして見てみる
「やっぱり揺らめいて…」
その瞬間父親の教えと今の状況が鍵と錠の様にガチャリと繋がり、一瞬で吹き出す嫌な汗と共にジールは叫んだ。
「スノウベアーだ!」
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