第28話:本当の理由

 ねぇ、十二単じゅうにひとえさん。もしかして僕だけが十二単さんが見える理由って――。


 それはある日のこと。

 僕は思い切ってとある仮説を十二単さんに尋ねてみた。


 もしかして僕とオタトークがしたかったから、とか?


「んなわけあるかーっ!」


 ですよねー。

 うーん、だったら本当に何が理由なんだろう?



 あの日以降、僕と光ちゃんは伊原君も交えてお昼ご飯を食べることが多くなった。

 本当なら伊原君も毎日のように僕の家に来て、十二単さんとおしゃべりをしたいはず。だけど伊原君にはサッカー部の部活があるので、それはままならなかった。


 なので代わりにお昼休みに昨日は十二単さんとこんな話をしたよって光ちゃんと一緒に報告することにしたんだ。

 まぁ、あまり大きな声で話すと他のみんなから変に思われるので、基本ちょっと小さ目な声で話すんだけどね。


「――ということで、オタ活目的ではなかったみたい」

「そうか」

「よくよく考えたらオタトークしたいのなら別にリアルの友達じゃなくても、ネットで幾らでもできるもんねぇ」


 そりゃそうだと三人で妙に納得した。

 うん、落ち着いて考えたらすぐ分かるのに、どうして思いついた時は三人そろって「それだ!」ってなっちゃったんだろう。

 てか、僕だけじゃなくて光ちゃんや伊原君にも結構なオタクだってバレてるよ、十二単さん!


「それでね、昨日、光ちゃんが帰ってから十二単さんと話し合ってみたんだけど、彼女が言うには多分僕たちがお互いに必要としていたからなんじゃないかって」

「どういうことだ?」

「十二単さんは死んじゃったけど何故かこっちの世界に残っていて、でもその姿を誰にも見られなかったら何も出来ないでしょ? だから誰かに見つけてもらう必要があった」

「そうだね。周りにはいっぱい人がいるのに、誰も自分に気付いてもらえないなんて寂しすぎて辛いもん」

「そして僕は僕でモブキャラから誰かに引き上げて欲しかった」

「モブキャラから引き上げる?」

「うん。多分僕も僕の人生の主人公になってみたかったんだと思う」


 ずっとモブキャラとして生きてきた。

 僕なんかが主人公になんてなれないと諦めていた。

 だけど誰もが自分自身の人生の主人公であるように、僕の人生だって主人公は僕自身なんだと、この数カ月で気が付いた。

 自分の人生は自分の行動で切り開いていけるんだって、十二単さんに背中を押されることで気が付くことができたんだ。


「もっとも十二単さんに言われるまで僕にその自覚はなかったんだけどね」


 なんせモブキャラ人生が長いですから。


「なるほど。だからお互いに必要としていた、というわけか」


 伊原君が昼ご飯を食べるのを止めて、うーんと胸の前で腕を組む。


「だがそれを言えば、俺だって十二単が必要だぞ」

「そうだよね、だって伊原君は十二単さんのことを……」

「もしあいつが応援してくれていたら、先の大会でももっと点が取れていたと思う」


 真顔でそんなことを言う伊原君。

 ……伊原君ってそういうキャラだったの?


「あ、それを言ったら私も結衣ちゃんが必要だよー」

「光ちゃんも?」

「だって一時期は結衣ちゃんの後を追おうかなって思ったほどだったんだよ?」

「まぁ、確かに十二単さんと光ちゃんは親友って感じだもんなぁ」


 伊原君とはまた違うけれど、やっぱり光ちゃんも十二単さんを必要としているのかもしれない。


「なのに何故俺には十二単が見えない?」

「なのになんで私には結衣ちゃんが見えないの?」

「そんなこと、僕に言われても分からないよっ!」


 そもそもさっき言ったのだってあくまで十二単さんの推測に過ぎないんだから。これが絶対正しいってわけじゃないんだから。

 それなのに。


「もしかして十二単は俺を必要としていない?」

「もしかして結衣ちゃんは私なんかどうでもいいのかな?」


 ふたりしてそんな結論に行きついてどんよりしてるし。

 いやいや、そんなわけないってとふたりを慰めるけれど、その度にふたりからして「本山は求められているからな」「信男君は必要とされているから」とジト目で見られるばかりでホント困ってしまった。


 あー、こんなことになるのなら話さなきゃよかったよ!




「って、マジでそれだからね、あんた!」


 家に帰って十二単さんに昼のことを話したら、いきなりマジギレされた。


「珍しくひかるんが来ないと思ったら。もう、なんでそんな話をするかなぁ。そんなの、ふたりからしたらショックを受けるに決まってるじゃん!」


 うう、ごめん。そこまで頭が回らなかった。


「まったく、あんたはあれやこれやと変に考えるくせしてそういうのに何故かそういうのには鈍感なんだからなー」


 ど、どうしよう? どうしたらいいかな、十二単さん?


「うーん、あんたが何を言ったところでふたりはすんなり納得できないだろうからなぁ。仕方ない、モブ男、ふたりにLINEして」


 え? あ、うん、いいけど。一体何を?


「遅くなってもいいからモブ男の家に来てって。私から話すからって」


 話すって何を?


「決まってるじゃん。何故モブ男にだけ私の姿が見えて、ふたりには見えないのか、その本当の理由わけを話してあげるんだよ!」


 え!? 十二単さんには理由が分かってたの!?


「まぁね。当事者だし」


 ええっ!? だったら最初に教えてよ。だったら最初からふたりに嫌な思いをさせなくて済んだのに!


「やだよ! 恥ずかしいじゃん!」


 ……え、恥ずかしい?


 僕のベッドから覗かせる十二単さんの顔が真っ赤に染まっている。

 なんだかよく分からないけれど、どうやら本当に恥ずかしい理由のようだった。



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