第23話:せいなる夜②
初めてのキスは甘い、まるでクリスマスケーキみたいな味がした。
ふたりして僕のベッドに腰掛けて、お互いに緊張しながら交わす口づけ。
最初は恐る恐る触れ合うように、だけど気が付けばどちらからともなくもっと相手を味わいたいとばかりに舌を絡ませ合った。
『キスだけで終わるわけがないじゃん』
頭の中で
確かにその通りだなと思った。
光ちゃんが口づけをしながら僕の背中に両手を回してぎゅっと抱きしめてくる。
胸に押し当てられる、信じられないぐらい柔らかいぬくもり。
鼻孔を擽る光ちゃんの匂い。それは僕んちで使っている石鹸や妹のシャンプーの香りの筈なのに、ちゃんと光ちゃんの匂いがした。
ああ、身体の全ての感覚が光ちゃんを求めてくる。
僕はその衝動を抑えきれない。
邂逅を惜しむように唇を離す。
顔を仄かに赤く染め、どこか発熱したようにぼぅっとした表情で僕を見つめる光ちゃん。
その優しげな瞳が嬉しそうに潤んでいるのを見て、僕は少し唾を飲み込んで。
「脱がしていい?」
どもることなく、落ち着いて訊ねることが出来ると、光ちゃんは恥ずかしそうにこくりと頷いた。
光ちゃんに手伝って貰ってパジャマ代わりのパーカーとその下のシャツを脱がすと、残ったブラジャーは僕にはどうすればいいのかよく分からなかったので、光ちゃん自身に外してもらうことにした。
両手を背中に回してパチンと留め具を外す音が聞こえる。と、目の前でブラジャーがまるでロボットアニメのコクピットみたいにかすかにずり下がり、おっぱいとブラジャーの間に隙間が出来た。
『ひかるんのはまさに「たゆんたゆん」だからね! あれこそ胸揺れ! あれこそおっぱいだからね!』
ブラジャーを脱いでもらっている際にたゆんたゆんと揺れるひかるちゃんのおっぱいを見て、ふと十二単さんのそんな言葉を思い出す。
さすがは巨乳四天王、その生おっぱいの大きさは十二単さんとは比べ物にならない大迫力だった。
「あ、あんまり見ないでね。恥ずかしいから」
「ご、ごめん。綺麗だなと思って」
「ほんと? おっぱい大きすぎない? 大きすぎて引かない?」
「引かないよ。僕は好きだよ、光ちゃんのおっぱい」
その言葉に光ちゃんが良かったぁと心底ほっとしたようにはにかんだ。
巨乳って女の子に取ってはステイタスだと思うんだけど、光ちゃんは逆に負い目を感じていたのか。なんか意外。
「前にね、男の子たちが言ってるのを聞いたことがあるの。『渡辺っておっぱいでかいよなぁ。あんだけでかいと逆に引かね?』って」
「そうなんだ。それはちょっと気にしちゃうよね」
「うん。でもよかった、信男君はそんなことなくて。……ところで信男君、下の方なんだけど……」
「う、うん……」
「さすがに自分で脱ぐのは恥ずかしいから……信男君、脱がして」
心音がひときわ高く鳴ったような気がした。
僕の答えを待たずに光ちゃんがベッドにころりと寝転がる。おっぱいを両手で隠し、少し身体を震わせながらも、お願いしますとお尻を浮かす。
誘われたまままずパンツを脱がした。ブラジャーとお揃いのショーツ、そして白く眩しい太ももに目を奪われる。
「じゃ、じゃあ脱がすよ……」
「は、はい……」
ショーツに手をかけ、一気にずり降ろした。
深い森の中に光ちゃんの秘密の花園が顔を覗かした。
「は、恥ずかしい……」
光ちゃんがおっぱいを両膝で挟み込みながら真っ赤になった顔を隠す。
そのポーズも、生まれたままの姿になって目の前に横たわる姿も、かつての僕なら鼻から血を噴き出して失神してもおかしくないほどだった。
でも今の僕は自分でも驚くぐらいに落ち着いていた。
冷静に、光ちゃんの裸をそんなに見ることもなく、ただこれから行うことの為に自分も服を脱ごうとしていた。
「……信男君?」
「ん? なぁに、光ちゃん?」
「私、恥ずかしすぎて死んじゃいそうだよ」
「うん。僕もだよ」
「ウソ。すごく落ち着いてるように見えるよ、信男君」
そりゃそうだ。だって
「うん、女の子の裸なら十二単さんので見慣れているから」
前に十二単さんが言っていた。あまり光ちゃんの前で自分の名前を出すなって。
それは「僕には死んじゃった十二単さんの姿が見える」って話を光ちゃんが信じていないからだって言っていたけれど。
よくよく考えたら、それだけじゃなかったんだ。
そのことをこの時を迎えても僕はまだ理解していなかった。
「……どうしてここで結衣ちゃんが出てくるの?」
上体を起き上がらせる光ちゃんの声が強張っていた。
「結衣ちゃんの裸ってどういうこと、信男君!?」
問い詰められて、僕は自分がとんでもない過ちを犯したことに気が付く。
「ねぇ、一体どういうことなの、信男君!!」
「そ、それは……その……実は内緒にしていたことがあって」
「まさか信男君、結衣ちゃんと付き合って」
「そうじゃない! そうじゃないんだ! 僕、死んじゃった十二単さんの姿を見えるって前に言ったよね?」
「……うん」
「実はね、その彼女……何故か裸なんだ、死んでからずっと」
光ちゃんなら信じてくれる。
どんなに信じられない話でも、光ちゃんだったら絶対信じてくれるはずだと信じていた。
そう、この時までは。
「もう! いい加減にしてよッ、信男君!」
「光ちゃん!?」
「結衣ちゃんの幽霊が見えるなんて見え見えのウソつかないで!」
「う、ウソじゃないよ! 僕にはちゃんと」
「どうせ結衣ちゃんが生きていた頃、みんなに内緒で付き合っていたんでしょ! こういうことだって結衣ちゃんとやってたんでしょ!」
「やってない! そんな、十二単さんとなんてそんな……」
「もういい! 私、今日は帰る!」
えっと呆然とする僕の横を抜けて、光ちゃんが服をかき集めて裸のまま部屋を出て行く。
追いかけなきゃと思ったのはその数分後、玄関のドアの開閉音が聞こえてきてからだった。
それまで何が起きたのか、上手く頭で処理できなかったんだ。
慌てて服を着て、家を出る。
雪は降っていないけれど、とても寒い夜だった。まだそんなに遅い時間じゃないけれど、しんと静まり返っていて、光ちゃんの姿どころか人の気配すらも全く感じられなかった。
「光ちゃん!!」
僕の声が静かな住宅街に空しく響く。
返事はどこからも……。
「おーい、モブ男! 一体どうしたのさ、あんた」
いや、返事をしてくれる人がひとりだけいた。
十二単さんだ。
うー、寒い寒いと言いながら自分の身体を抱きしめるようにして、隣の家の壁からひょっこり顔を出してくる。
どこにいったのかと思ったらお隣さんにお邪魔していたのか……って今はそれよりも!
「十二単さん、大変だ、光ちゃんが!」
「あー、やっぱりあんたに初えっちはさすがに早すぎたかー。で、どうしたの、早すぎたの? それとも立たなくて愛想尽かされた?」
「違うんだ! 実は……」
気が付けばいつもの心の中だけじゃなくて、実際に声を出して彼女に説明していた。
それぐらい僕はあっぷあっぷだった。
そして
「馬鹿!」
十二単さんは顔を真っ赤にして怒り狂った。
「あんた、ホントにバカ! あれだけあたしの話はするなって言ったのに! しかも初えっちの時にそんな話をしたら、ひかるんが怒って帰るのは当たり前でしょ!!」
「ご、ごめん! だって光ちゃんは僕の言うことを信じてくれていると思っていたから」
「そうじゃない! ああ、もう! あのね、女の子ってのは好きな人の口からは他の女の子の話なんて聞きたくないのッ! たとえ親友であったとしても!!」
「そ、そうなの……?」
「当たり前でしょ! なのにあんたったらこれからやるぞって時にあたしの名前なんか出して……ああ、もう信じられない。最悪……」
そんな……だって、僕……知らなかったから……。
結局その日、光ちゃんは自分の家に帰ってしまった。
僕からの電話にも出てくれなくて、送ったメッセージも翌朝まで寝ないで待っていたけど既読すらつくことがなかった。
☆ ☆ ☆
初えっち失敗どころか、取り返しのつかない大失敗をしてしまったモブ男。
このままふたりは別れてしまうのでしょうか?
気になるところですが、ここでお知らせです。
頑張って書いているのですが、ストックが残りわずかとなってしまいました。
ですので今日から一日一回、お昼前の更新のみとなります。申し訳ありません。
これからも今作をよろしくお願いいたします。
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