第8話:裏アカリグレット
「あ、そう言えばモブ男ってツイッターってやってる?」
その日の夕食時、
んー、一応アカウントだけ持ってるけど。
「そうなんだ。じゃあ晩御飯食べ終わったらツイッター見せて」
え、やだよ。僕のなんか見ても面白くないし、そもそもツイッターなんて個人情報じゃないか。
「あ、違う違う。モブ男のじゃなくて、あたしのアカウントのを見たいんだよ」
十二単さんのアカウント?
「そう。てかモブ男のタイムラインなんて、どうせえっちな絵ばっかりが流れてくるんでしょ」
バレてるよ。個人情報がどうのこうのとカッコつけたのにバレてたよ。
「そんなの、普段のモブ男を見てたら丸わかりだよ」
えー? 僕、そんなにスケベかなぁ。
というか痴女みたいな言動が目立つ十二単さんには言われたくないと一瞬思ったけど、思考を読まれると困るのですかさず「六根清浄、六根清浄」と呟いた。
「お母さーん、おにぃがご飯食べながらお経を唱えてる!」
「信男、いったいどうしたの!? 最近何か変よ?」
あ、ごめんなさい……って思わず心の中で謝ろうとして慌てて「ご、ごめん」と口にした。
まずい、まずい。十二単さんとの心の中での会話が楽すぎて、他の人とも同じようにしようとしている。気を付けなきゃ。
「ほら、これがあたしの裏アカウント」
夕食後、僕の部屋で十二単さんに言われるがままパスワードを打ち込んだ僕は、スマホの画面に現れた彼女のアカウントに驚いた。
だってそれは僕もフォローしている、超人気アカだったからだ。
「やっぱり知ってたかぁ。モブ男ってホント、むっつりスケベだよねぇ」
いやいやいや! それを言ったら十二単さんこそ!
だってこれ、ちょっとエロいコスプレイヤーさんじゃないか!!
そう、それはちょいエロコスプレイヤー・ゆーたんさんのアカウントだった。
顔出しNGのコスプレイヤーさんってことでアングルやシールなどで顔を隠しているけれど、代わりに股間や胸元が結構きわどい自撮りコスプレ画像を上げている。
フォロワー数を見たら、げっ、10万人近くもいる!!
さすがはエロ。エロは多くの人を引き寄せる!
「おい、本人を前にエロエロ言うな!」
あ、ごめん。
「まったく。裸だったら全部エロいと考えるのはどうかと思うよー? エロいの前に美しいとか芸術的だと思わないの?」
うっ。そう言われたらなんか自分がとても惨めに感じてきた……。
「うん。大いに反省するように。そもそも私のコスプレはそのコスチュームの完成度の高さも売りにしてて……ってうわっ、このコスプレ、えっろ!」
おいおい。今、自分でもエロいとか言っちゃったよ、この人。
「あ……ごほんごほん。と、とにかく!」
あからさまに胡麻化したなとは思ったけれど、下手にツッコミを入れたらお互いに大やけどしそうだったので、ここは黙って静聴することにした。
「お昼に話していて思い出したんだけど、多分これもわたしの心残りのひとつだと思うんだ」
このエロコスプレアカウントが?
「エロコスとか言うな! でね、この裏アカはもともとは子供の頃、お父さんやお母さんとコミケへ参加した時に撮った写真をアップしたのが始まりだったんだけど」
あ、それ知ってる。
まだ小学低学年ぐらいの女の子が『葉桜大戦3』のロリっ子・カプリコのコスプレをしている奴だ。
その完成度の高さ、あまりの可愛らしさにネットでは「この子は一体誰だ?」って一時期話題騒然となった。
思えば僕もその時にこのアカウントをフォローしたんだった。
「うわっ! モブ男ってロリコンだったの!?」
ち、違うよ! 僕は純粋に可愛いなと思ってフォローしただけで。
「怪しいなぁ。ちょっとスマホの画像フォルダーの中身を見せてみ?」
やだよ! てか今はそのアカウントでやり残したことがあるって話でしょ!
「うわー、必死すぎ。あんた、絶対小さな女の子に近づいちゃダメだよっ!」
だから違うって! そもそも僕は対人恐怖症だぞ、三次元なら小さな子でも怖い!!
そう、つまりは二次元専門です。そっちならロリからおっぱい大きなお姉さんまで守備範囲広いです、はい!
「何が守備範囲広いだか……ま、あんたのエロ画像だらけのフォルダーなんておぞましすぎてどうでもいいや」
おぞましいって……その中には一応十二単さんのエロコスプレ画像も入っているのだが!?
「なっ!? ちょ、それは消して! 今すぐ消せ! 早く!」
え、やだよ! 消そうとしたら画像フォルダーを開かなくちゃいけないじゃないか!
「あんたが集めた他の画像なんてどうでもいいから! それよりもあたしの画像を消して!」
無理。若気の至りでアップした自撮りはデジタルタトゥーとして残るんだぞ。知らなかったの?
「そんなのは知ってるよっ! そうじゃなくて、あたしが嫌なのはあんたの集めたおぞましい画像の中にあたしのも入ってるってことなのッ! だからあたしは見ないから消してください、お願いしますっ!」
まったく。おぞましいおぞましいって僕のお宝をなんだと思っているのだろう。
それでも本気で嫌がっているみたいだったから、仕方なく消してあげることにした。
探し出すのに小一時間ぐらいかかった。大変だった。
「さて、モブ男の深すぎる業のおかげで余計な時間を消費してしまったわけだけど」
画像を消去したよと伝えた僕に十二単さんは軽くため息をつくと、改めて本題を話し始めた。
てか、深すぎる業って余計なお世話だよ。
「御覧の通り、この裏アカはちょっとえっちぃ、もとい芸術性の高い画像を上げてます。その意味は何でしょう、モブ男?」
えっとなんだろ? 若気の至り?
「私たちの年齢ならなんでも若気の至りでしょーが。違います。これは注目されたかったから。人気者になりたかったからやってるんだよっ!」
えー? そんなことしなくても十二単さんって十分に注目されてる人気者じゃないか。
なのにどうしてこんなことまでするかなぁ。
人から注目されるのが苦手な僕にはまるで理解できないよ。
「だろうね。でもね、注目される、人気者になるってのは底なしの快楽なの。もっとあたしを見て、もっとあたしを褒めてってなるわけですよ」
そうなんだ。さすがは痴女。
「痴女じゃない! で、そんなあたしにとってフォロワー数ってのはとても重要なの。で、改めて見て欲しいんだけど、この裏アカのフォロワー数、まだ10万人に届いてないよね?」
うん、あともうちょっとだけどね。
「これがあたしの心残りのひとつ。もうすぐ10万人を達成するのを楽しみにしてたからねー。そこでひとつモブ男に頼みがあるの」
え? やだよ、コスプレなんてしたくないよ、僕。
「アホか! 誰がモブ男のコスプレなんかでフォローしてくれんのさ! 逆にフォロー外されるわっ!」
そうじゃなくてちょっとあたしの写真を撮って欲しいんだけどと言ってくる十二単さん。
それぐらいだったらと耳を傾ける僕。
でも、その後に十二単さんはとんでもないことを言い出したのだった。
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