第6話 スマホを忘れただけなのに
7月に入り日中の気温が30度近くなる日も多くなり本格的な夏の到来を感じさせる。そんな鬱陶しい暑さの中、俺は学校の昼休みに冷房が効いている図書室でライトノベルを読んでいるとポケットに入れていたスマホが震えるのを感じた。
『どこいんの?東校舎の3階にある空き教室に集合ね』
これまでは秋葉原など学校の外で密かに会う事が多かったが、とうとう校内で呼び出しをしてきたか。いや、普通に他の生徒がいる状況で俺達が会うのはリスクがありすぎはしないだろうか。
「面倒くさい……」
無視したら何をされるか分かったものではない。俺は開いていた本を閉じ重い腰を上げて指定された場所へと向かった。
「遅い。私が招集かけたら1分以内に来な」
「無理に決まってるだろ」
俺達が所属する1年B組の教室―――全ての学年の教室も含めて―――西校舎にあり、地学室や生物室などの多目的室が東校舎に全て入っている。今は昼休みだしわざわざ3階まで足を運ぶ酔狂な生徒はいないから確かに俺達が会ってもバレないと納得した。
「やっぱ週末だけ会うのって効率悪いじゃん?これからは毎日アンタの進捗聞く為に呼び出すから」
「マジかよ……」
「その顔だと、全然シナリオ書いてないようね。絶対月末までには間に合わせないと社会的に殺すから。」
「冗談に聞こえねぇ!?」
こいつなら本気で実行してきそうだから怖い。
「ま、それは置いといて、依頼するイラストレーターの人は見つかった?」
「……それ以前に俺達には金がないからある分で頼めるイラストレーターが一人もいないのが現状だな」
そう、現状俺と飛鳥井は使える金が非常に少ないというのが目下一番の障壁になっている。
俺は当然バイトなんてしてないし、飛鳥井も家の事情で出来ない。二人の所持金を合わせると何とか印刷所に頼む事が出来るという酷い状況だ。
「まぁ、もう一度頼める人がいないかネットで探してみる」
「じゃあ私は美術部の子に頼もうかな。いや、それはリスクありすぎるか……」
結局具体的に良い案が浮かばないまま昼休みが終わる5分前になってしまった。
俺達の関係がバレないようにまず俺が空き教室から出て歩いているとふとポケットにスマホが無いことに気がついた。
「あれ、ない……あ」
そういえば図書室のテーブルに置きっぱなしだった事を思い出した。もうすぐチャイムがなるから急がないといけない。俺は早足で図書室へ向かうとドアを開けた。
図書室は授業が始まる直前の時間帯のおかげで人気がなく静かな雰囲気が漂っている。その室内で一人の女子生徒が俺のスマホを覗き込んでいた。
「あの〜……」
「ひゃい!?」
文字通り飛び上がった彼女は驚いて俺を見つめている。
「あ、あ、あ」
「あ?」
「あ〜!!!!!!」
突如奇声を上げると三つ編みの髪を揺らしながら俺の側を駆け抜けて走り去ってしまった。
「な、何なんだ一体……」
再び静けさが戻った室内で呆然としていた俺はチャイムが鳴るのに気づき駆け足で教室へと戻った。
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