第4話 アニメについて語る
「……」
「…………」
秋葉原駅から歩いて5分程度の場所にあるファミレスに入った俺達はドリンクバーで注いだジュースを無言で啜っていた。
時刻は正午を回ったせいもあるのか、店内は満席で煩い程の喧騒に包まれている。そんな中、俺達の座っているテーブル席だけは交わす言葉もなく思い沈黙に包み込まれていた。
やばい、何を話したらいいんだ。何故俺はクラスのトップカーストに君臨するギャルと向かい合っているという事実があまりにも現実離れしすぎて実は夢なんじゃないかこれ?
「……ニューシーって名前、あれって自分の苗字からとってんの?」
「え、あ、は、はい。新しい海だからニューシーです」
「あっそ」
「……」
アカン、会話が終了してしまった。次の話題に上手く繋げる事なんて俺には到底できない。怖くて顔も見れないしもう帰ってもいいかな。
「……はぁ、あのさ、まずはその敬語やめてくんない?私ら同級生なのにおかしいっしょ。普通にキモいからタメ口にしな」
「あ、は、はい……分か、った……」
「……あ~もう!何でよりによってクラスメイトのアンタがシーさんなの!?マジ
ありえねぇって!」
それはこっちの台詞だ。
「いや……その、言わせてもらうけど、大抵ツブッターでアイコンをアニメのキャラに設定している人間って俺みたいな人種だって思った方がいいと思うけど……」
「あぁ!?」
「ひぃっ!?ご、ごめんなさいぃ」
高速で頭を下げる。弱い人間は強い奴に服従するしか道はないのだ。
「まぁ、出会い目的でオタク装う屑みたいな人間もいるし、その点アンタは大丈夫そうだから安心したわ」
全く褒められていない気がするがその点を指摘しても話が進まないので黙っている事にした。
「……てか、その鞄に付けてある缶バッチ、かんなちゃんのやつじゃん」
「え、あ、ああ。そうだけど」
「アニコイド限定で円盤購入した先着100人にしか配布してないやつっしょ!?私も欲しかったけど店舗購入限定だったから泣く泣く諦めたんだよね」
途端に目を輝かして身を乗り出してきた飛鳥井に俺は若干引き気味に縦に頷いた。
「うわぁ~、しかもキャラデザのコト―さん書下ろしじゃん!アニメの23話で敵幹部のサンカクの策略で操られたえすちゃんと戦うシーンとか個人的に胸熱だったわ」
「あ、だよな?あのシーンを描いた田村つくねさんのすごくクオリティの高い作画が神がかってたな」
「そうそう!かんなちゃんの悲壮感が漂っている表情がマジで最高だった!しかも24話でも―――」
「作画監督は―――」
暫く俺と飛鳥井は全てを忘れて『魔女っ娘えすちゃん!』の感想を語り合った。初めて飛鳥井と面と向かって話したが、俺と同じかそれ以上にアニメや声優に関しての知識が豊富で話題が全く尽きない。
気づけば窓の外から見える空はオレンジ色に染まっていて夕方になっていた。昼頃に座ってから約6時間近く語っていた計算になる。
「……あ、もうこんな時間か」
飛鳥井が手元のスマホを見た。流石にこれ以上長居すると店側が迷惑するだろうからそろそろ帰った方がいいな。
「アンタの連絡先、教えてくんない?」
「え?」
「電話番号と『rain』アプリのアカウント」
「あ、ああ、分かった」
俺は慌ててポケットからスマホを取り出してメッセージアプリ『rain』を起動した。しかし今まで他人と連絡先を交換した事がないから方法が分からない。
「貸して」
いきなり俺のスマホを奪うと目にもとまらぬ速さで操作をして俺に返してきた。画面を見ると『rain』の友達爛に『飛鳥井 万叶』のアカウントが入っている。
「……私、今までこうしてリアルで大好きなアニメを好きな人同士で語った事なんてなかったんだ」
「……」
「だから、提案なんだけど、これから週末の休みは定期的に会ってこうして話したりしてくれない?周りの友達はアニメに興味ない子ばっかだし、それに学校での立ち位置もあるから迂闊に自分がオタクだって事話せないし。それに、私の夢の為に色々と手伝ってほしい」
「……?それは、まぁ、構わないけど」
「マジ!?やった~!じゃあ来週の土曜日また秋葉原に集合しない!?私一人じゃ入りにくい店って結構多いんだよねぇ~」
「お、おう」
とんとん拍子で話が進んでいきいつの間にか来週もあう予定を取り付けられてしまった。
「じゃあ、来週の土曜日の昼に集合!遅れんなよ!」
鞄を肩にかけて満面の笑みを浮かべながら颯爽と店から去っていく彼女の姿を見送って暫くした後、彼女が飲み食いした分を払わず結局俺が代わりに支払う羽目になった。学生の身で3千円はきついって……。
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