第3話 実際に会うのは緊張する

 悶々とした学校生活を過ごし、ようやく人々が開放的になる休日の土曜日になった。

 比較的最近買った(というか母さんに買ってもらった)墨で書かれたドラゴンがプリントされているtシャツとジーパンを着用して気分を引き締めて自宅を出て秋葉原へ向かう。


 自宅の最寄り駅で山手線に乗り秋葉原へと向かう道中、俺は流れる車窓の景色を眺めながら脳内で何度もバードさんとの会話をシミュレーションしていた。


 まずはしっかりと挨拶する事が大事だ。第一印象でその人物の全てが決まるといってもいい。大丈夫だ。今まで何度もツブッターなどで会話をしてきたのだ。その延長線上でしかないから緊張する必要なんでない……だが万が一会話が弾まなかったらどうしよう。そのままキャッチボールができずお通夜ムードになったらその後の関係がギクシャクして疎遠になる事も考えられる。


 うーん、心配しすぎて頭が痛くなってきた。『魔女っ娘えすちゃん!』の主題歌『悪い敵には鞭打ちよっ!』をリピート再生して心を落ち着けよう。


 イヤホンをして静かに気分を落ち着かせていると車内アナウンスが秋葉原駅へ着く事を告げている。やがて車両がホームに滑り込んでドアが開く。


 大勢の人々と一緒にホームへと降りると俺はとりあえず近くのベンチに座りスマホを確認すると、バードさんからのメッセージが画面上に表示されていた。


 『もう着きました!待ってるよ~』


 一気に緊張が高まる。改札を出たらバードさんに会えるのだ。


 会えるのが楽しみな反面、もう帰りたいという思いもある。随分前から友達と遊ぶ約束をしてて前日になるとすごく面倒になるのと同じ現象だ。リアルに友達いないけど。


 『了解です!俺も今着いたから改札で会いましょう』


 返事のメッセージを送りベンチから立ち上がると電気街口の改札へと向かった。


 やがて改札へと辿り着き、購入していた切符を通して駅舎から出ると眩い日差しが俺の上へと降り注いでいる。思わず目を閉じゆっくりと開くとそこは駅前の広場だ。


 休日を利用して来ているであろうオタクが行き交っていたり外国人観光客が駅舎をバックに写真を撮っているなど大勢の人々で賑わっている。流石は世界が誇るオタクの街だ。


 さて、問題のバードさんはどこにいるのだろうか、俺は邪魔にならないように広場に植えられている樹木の下に行き周囲を見渡した。


 そういえばバードさんの特徴を聞いていなかった。まぁ、どうせ俺と同じようなオタク丸出しの服装だろうから見つけるのは簡単そうだ。


 「げ」


 ふと駅舎の方に目を向けると見覚えのある人物が壁に寄りかかってスマホをいじっているのを見つけた。


 あの飛鳥井 万叶だ。学校の制服とは違い股近くまで肌を露出させているデニムパンツに同じくデニムのジャケットを白い無地のtシャツの上に羽織っている。星形のピアスを揺らしながら時折スマホから目を放し周囲を見ている。


 何でこんなオタクの聖地に飛鳥井がいるんだ?陽キャにとって一番縁のない場所なのに……。


 とにかく嫌なタイミングで出会ってしまった。向こうが俺の事を覚えているとは思えないが万が一陽キャ特有のコミュで馴れ馴れしく俺に話しかけるかもしれない。俺はバードさんに服装を訪ねようとすると二人組のチンピラ風の男が飛鳥井に話しかけきた。


 待ち合わせの人物だろうか?それにしては眉間に皺を寄せて手で追い払っている。


 俺は人生で初めてナンパを見たかもしれない。見ず知らずの女に話しかけるメンタルなどどこで養っているのだ。俺には全く理解できない行動である。


 ふと飛鳥井の視線が俺と合ってしまった。驚いたように少し目を見開くと速足で俺に向かってきた。


 「あ~!もうどこに行ってたの~?彼女待たせるなんて最悪~」


 いきなり俺の腕を手に取ると身体を密着させてきた。え、何だ今何が起きている?


 「は?彼氏持ちかよ……」

 「だる、行こうぜ」


 チンピラ二人組は俺を睨んだ後諦めて去っていった。


 「……はぁ、最悪」


 先程まで笑顔を貼り付けて彼氏アピールをしていたのに苦虫を嚙み潰したような顔をして離れた。


 「あんた、同じクラスの新海 士郎しんかい しろうでしょ?」


 「え、あ、そ、そうですけど……」


 思わず敬語になってしまう。陽キャ怖すぎてタメ口なんて絶対聞けない。


 「は?何で敬語?……まぁいいわ。あのさ、今日ここで合った事絶対に学校で言わないでくれる?」


 「あ、は、はい……」


 「もし言ったらどうなるか分かるっしょ?そういう事だか―――」


 飛鳥井は言葉を遮り先程よりも更に驚いたように目を見開いている。その視線を辿ると俺の手に持っているスマホに注がれていた。画面にはバードさんとのダイレクトメッセージのやり取りが表示されている。


 「は……?ニューシ―なのお前……?」


 「えっ?」


 俺は思わず否定の声をあげようとしたが、彼女のスマホには『揚げたバード』のツブッターアカウントが表示されていた。


 「え、えぇ〜……」


文字通り目の前が真っ暗になった。


 


 

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