07 ≪プリムラが二人の方を見て咲いている≫

 

 楓とユリの、たった二人の二人暮らしは順調に進んでいた。

けれど、ずっとユリは楓の家の中にいる。

中々家から出ようとせず、もし家から出る事があっても、それは日用品の買い出しや晩御飯の材料を探しに行く時だけ。

たとえ、そんな生活が順調だったとしても、ユリが楽しいと思えていないのであれば、楓は申し訳なく思う。

なんせ、勝手なエゴで保護しておきながら、楓は毎日ユリを置いて、学校とバイトに明け暮れる日々だから。


「ねぇ、ユリ」


「なんです?」


「明日出かけるから。付き合って」


「分かりました。どこに行くんですか?」


「ちょっと街の方に」


「ここも結構街ですけど、まだ街なところがあるんですか?」


「まぁね」


 住む場所の希望だって、別に私から言った訳じゃない。

住む家の間取りや利便性だって、私は何も口出しをしていない。

この家にある家具だって、全部、全部。

あの人達の同情の賜物。


「分不相応、だとは思うけど……」


 謝罪、謝罪、謝罪、謝罪、涙と後悔。

度重なる懺悔の結果、私はこんな場所で。


「楓さん?」


「あぁ、ごめん。どうかした?」


「いえ、もう寝ませんか? 明日出かけるのあれば尚更」


「あぁ、うん……」


 ソファーに座り、窓の外に広がる景色を見て何かを思い、考える楓にユリは声を掛け、そう言うと。


「その、楓さんは今日もソファーで寝るんですか?」


と、つい心配してしまう。


「あのベッド、二人じゃ使えないし」


「でも、その……」


「いいからいいから、ユリはベッドでゆっくり寝て」


「そう……言ってくださるのなら……甘えますけど」


 家事はユリが、それ以外の事、例えば学校に行くという仕事やアルバイトに行くという仕事。

まるで家族の様に二人は過ごしていた。

生活を、日常を、当たり前にし続けていた。

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