第33話 遭遇

 ポタ、ポタ、ポタ、

 ダニエラは下を向いている。

 どうした?

 んっ?

 泣いているのか?


『どうしたんだい、ダニエラ?』

「ほんとレオは女殺しね」

『??』

「そんなストレートな愛の歌を囁かれたら、どんな女だって堕ちるわよ」

 前にもいわれたな?

「ただレオが人間ではないことね、残念だわ」

 そうだよな、俺も残念だよ。

「これで私の婚期がのびたわね」

 いえ、結婚できないのはそれが原因ではありません。




 夕刻になり父親が、会合かいごうに行く時間になった。

 玄関でダニエラと侍女たちが父親の馬車を見送っている。

 馬車の護衛は左右に3人ずつ、計6人。

 街中ならこれでも十分すぎる警備だろう。


 さあ、いくぞ。


 俺は暗くなり始めた空に舞い上がった。

 元々モモンガの俺は夜行性で、夜でもよく物が見えている。

 ふぅ~、風が気持ちいい。


 パカ、パカ、パカ、

 馬車は街の中を何事もなく進んでいく。


 そうだよな、まさか昨日の今日で襲うわけはないよな。


 そう思った瞬間だった。

 馬車が路地に入ると男たちが現れ入り口を塞いだ。

 しまった!!


 そうおもった途端、今度は前方を別の塞がれる。

 完全に行くことも戻ることもできなくなってしまった。


「どうしたのだ?!」

「はい、突然、複数の男たちに前後を塞がれまして」

「な、なんだと!!ロメイ商会の馬車と知ってのことか?!」

 ダニエラの父親だろうか、馬車の窓から顔を出し声を上げる。


「知ってるよ、知ってるから襲っているのさ」

 すると男たちの中から髪を短く刈りあげた、リーダーらしい男が前に出てきた。

「お前は誰だ?」

「誰でもいいだろう。俺達は金次第でなんでも請け負う組織さ」

「私をどうする気だ」

「捕まえることができればいいが、無理なら始末してくれ、といわれているな」

「そんなことをすれば、ただでは済まないぞ?」

「あはは、そんなことは気にするなよ。あんたの商会は大きくなり過ぎたのさ。公爵並みの屋敷とそれを上回る財力。年々、力を増していく商会なんて、他の者からすれば厄介者でしかないだろう」

「お前たちの思い通りにはさせるものか」

「そうかい、お前達やっちまえ!!」


〈〈〈〈〈 おうっ!! 〉〉〉〉〉


 前後合わせて10人以上の賊に襲われ始める。

 いくら護衛が先鋭といっても数にはかなわない。

「ご主人様、逃げてください!!」

 そう護衛が叫ぶ!!


 父親が馬車から降り襲われそうになっている!!


 あぶない、いくぞ!!


『ぽん、ぽん、ぽん、ぽん、ぽん、ぽん。ひと~つ、人の世の生き血をすすり…、ふたつ、不埒な悪行三昧…、醜い浮き世の鬼を退治てくれようモモンガ太郎…』


「さあ、逃がすな。追え~!!」

 男たちは俺を無視して父親を追いかけていく。


 彼等にはレオの声は『シューシュー、チキチキ、チチチ、カチカチ』としか聞こえなかった。


 ひゅ~。


 ぽつん。


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