SNSをやっていてもそのことを周りには秘密にしている、あるいは周りの人間に教えているアカウントとは別に裏アカを持っているなんて人も多いでしょう。本作はそんな周囲には秘密にしているアカウントにまつわる物語。
物語の舞台となるのは、全国紙『日の出タイムス』の宇都宮支局。時には上司が部下を叱ったり、逆に部下が上司に食って掛かったりと、どこの職場でも見られる光景が繰り広げられている。だが、その裏では複数の匿名アカウントによって、職場で起こった出来事が次々と呟かれていく。
本作には合計10個のアカウントが登場するのだが、発信の方向性はアカウントによって様々。部下に対する説教を堂々と書いて炎上するアカウントや、自分が関わった記事を淡々と紹介するだけのアカウント、自分のことを棚に上げて他者への不満ばかり口にするアカウント……「こういう人見たことあるわー」とつい思ってしまうほどの生々しさが本作の大きな魅力。
地方支局での出来事と、SNS上の呟きの両面から展開されていく物語はやがて意外な真相に辿り着くのだが、この真相が非常に後味の悪いものになっている。あまり大きな声では言えないが、ドロドロした人間関係や他人への陰口が好きという人には是非オススメしたい一作である。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)