第7話 咲の死

 晶子が納品され一週間が経過した。アンドロイドの整備中だったゴルディアスが突如警戒態勢を取った。赤い三つ目が激しく点滅している事を確認した球磨が質問した。


「ゴルディアス。どうした?」

「救急車と警察車両が数台出動しました。SAT(Special Assault Team)部隊も同行しています」

「発砲事件か?」

「不明です」


 そう返事をしたのは瞳を赤く点滅さているユズハだ。


「情報を入手しろ」

「了解。現在、暗号キーの解読中……終了しました」

「何があった?」

「……殺人事件……アンドロイド……西地区……番地はWA22-1250

……霧島咲きりしまさき様のご自宅です。晶子が何かやらかしたのかしら。強盗を絞め殺したとか?」

「それは有り得ない。痛めつけたとしても殺しはしない。殺人に関しては絶対的な規制をかけてある」


 球磨は腕組みをしつつ首をかしげていた。


「わからんな。何があったのか」

「ですわね」


 再びゴルディアスが赤い三つ目を点滅させた。


「SATの装甲車と警察車両が当工房に接近中です。捜査令状を所持している模様」

「仕事が早いな。担当刑事は誰だ?」


 球磨の質問に対し、今度はユズハが返事をした。


多中創太たなかそうた警部補です」

「ふむ……アイツか」

「ご存知なのですか?」

「ああ。少しな」

「多中氏はオリンポス市警察の正義感溢れる警察官です。それ故、行き過ぎた捜査をする場合もあるようですが、何か弱みを握っておられるのでしょうか?」

「そんなものはない」

「残念」


 ユズハが残念そうに首を振る。それと同時に工房のAIセミラミスが来訪者を告げた。モニターにはインタホンを押す警察官とその後ろに控えるSAT隊員の姿が映っていた。


「オリンポス市警の多中だ。トウジャー・球磨・ブランシュに話がある」

「どのようなお話でしょうか?」

「昨夜、球磨の顧客である霧島咲が死亡。警察では事件と事故の両方で捜査を開始したが、現状では球磨の改造したアンドロイドの犯行ではないかという見方が強い」

「わかりました。主人と代わります」

「球磨か。事情を聴きたい。あのアンドロイドは君が改造したんだろ?」

「ああそうだ。中に入れ」


 正面玄関のドアが自動で開き私服警官の多中と武装したSAT隊員が二名入ってきた。


「物騒だな」

「命令だから仕方がない。それに、ここにはアレがいるじゃないか」


 多中は顎をしゃくり金属製のゴルディアスを見つめる。


「心配するな。地球からの指示がなければ戦闘モードへ切り替わらない」

「そこが曖昧だから心配してるんだよ。上が」


 要するに、球磨の公房にいる戦闘用アンドロイドに対し警察は警戒を怠っていないという事である。


「まあ座れよ」

「ああ」


 多中は防寒具を脱いで応接セットにドカリと腰を下ろす。大柄な彼は一人で三人掛けのソファーを占領していた。自動小銃を担いだSAT隊員はその傍で起立したままだ。


「咲さんはどうしたんだ」

「それだ。彼女は今朝、遺体で発見された」

「病死か」

「いや、凍死だった。寝室の窓が開け放たれていたんだ」

「どうして窓が?」

「それだよ。あんたが改造したアレが空けたんじゃないかと思うんだが」

「アンドロイドは窓を開ければ必ず閉める。外気が零下なら閉め忘れはありえん」

「そこだ。昨夜は外気が零下30度ほど。そんな状況で何故そうなったのか? そこが知りたい」

「だよな。晶子本人には尋問したのか」

「機能停止している」

「ん? 機能停止はありえない」

「ありえんか。あんたがそう返答する事は想定内だ。しかし機能停止していた。俺たちはあんたのミスじゃないかと疑っている。もしそうなら業務上過失致死とアンドロイド規制法違反だ」


 球磨はタバコに火をつけ静かに吸い込み、ゆっくりと煙を吐き出す。そしてぼそりと呟いた。


「現場に連れていけ」

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