第6話 納品されたアンドロイド

「ああ……あきちゃん。晶ちゃんなのね」

「奥様、私は家事支援アンドロイドの晶子あきこです。そのようにきつく抱擁されては困ります……」


 霧島咲きりしまさきの自宅を訪れた一行に対し、杖をついていた咲は、右手の杖を放り投げて晶子に抱きついてしまったのだ。晶子の指摘を受けた咲は恥ずかしそうに彼女から離れた。


「ごめんなさい。あなたはアンドロイドの晶子さんだったわね。本当に晶ちゃんにそっくりだったから……ごめんなさい」

「奥様。お気になさらないで下さい」


 晶子の言葉に咲は頷いていた。その両目には僅かながら涙が光っていた。


「それではこちらの受領書にサインをお願いします。何かお気づきの点があれば工房までご連絡ください。週に一度の充電と年に二度の定期メンテナンスは今までと同様に実施してください。尚、定期メンテナンスは綾瀬重工の指定代理店か、もしくは当工房までお申し付けください」

「わかりましたわ」


 球磨の扱うペン型の端末から電子書類が数枚浮かび上がる。その中の一枚に咲がサインをした。そして球磨は別の小型タブレット端末をテーブルに置く。そこから電子書籍の各ページが空中に広がった。


「こちらが取扱説明書となります。以前のものと同一ですが、終わりに10ページほど追加してあります。ブランシュ工房の調整したアンドロイドの特性について、そしてそれに付随する注意事項です」


 球磨が該当するページを開いて指さす。


「今回は特に人間的な言動を取るように調整してあります。時に、主人の言葉や行動に同意しなかったり、命令を拒否したりするでしょう」

「さっきの?」

「そうです。通常なら主人の言動に口を挟む事などありませんが、この子は時に反抗的となるよう設定されています」

「私の思い通りにはならない」

「そうです。例えば、スカートめくりをしたりお尻や胸に触ったりすると本気で怒ります」


 球磨の言葉に驚いた咲が晶子の顔を見つめる。


「晶ちゃん。本当なの? スカートめくったら怒るの?」


 晶子は視線をそらしつつ俯いてから返事をした。


「いえ、ご主人様に対して怒ったりはしない……はずです。多分……」

「この子はね、嘘をつく時は視線をそらして俯きます。わかりやすいでしょ」

「マスター。私は嘘なんてつきません」


 今度は晶子が不満げに訴える。しかし、その言葉はしっかりと無視された。


「晶ちゃん。その顔……いいわ」

「でしょ?」

「ええ。ブランシュ工房の技術は最高です」


 咲と球磨がお互いの手を握りしめる。しかし晶子は、彼女達が意気投合している理由が分からず、目を見開いて二人を交互に見つめるばかりだった。

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