第5話 ゴルディアス
そこはオリンポス中心部からは少し外れているが、高級住宅街として多くの邸宅が立ち並んでいる地域であった。市外との境目である氷の壁、即ち球磨のアンドロイド工房から数キロの地点である。
火星連邦首都オリンポス。寒冷化の進んだ火星において地上での生活が苦にならない大都市である。とはいうものの、地上の気温は年間を通じで常に零下であり自然に氷が溶けることは無い。その雪解け水で濡れた路面を歩いている三名。いや、一人と二体のアンドロイドだ。
先頭を歩いているのは白い毛皮の防寒具に身を包んだ白熊のような外観の球磨だ。彼女はぽっちゃり系なので、防寒着を着込むと雪だるまのようになってしまう。その後から金属製のゴルディアスと制服の上に防寒着を羽織っている晶子が続く。
晶子は裸で歩いているゴルディアスに声をかけた。
「ゴルディアスさんは寒くないんですか? 何も着ないのですか?」
「はい。私は人間のように服を着ることはありません。作戦状況によって追加装甲や外部兵装を装着しますので」
「服は邪魔なの?」
「基本的には邪魔となります。時には赤外線防御やレーザー反射防御などの不織布を纏う事はあります」
「いや、だからそれは軍事作戦に参加している場合でしょ? あなたは今、軍属ではなくて工房の助手なんでしょ? 軍事とは関係ないのなら普通にしていればいいのに?」
首をかしげて晶子が問う。その様はまるで本物の女子高生のようだ。ゴルディアスは赤い三つ目を点滅させながら晶子に答えた。
「実は……私の所属はPRA(環太平洋同盟)の突撃機動軍なのです」
「え? 突撃機動軍? 宇宙の海兵隊と言われてるアレ?」
「はい。艦隊に配備されている戦闘用自動人形です。主な任務は機動歩兵部隊の支援となります」
「機動歩兵……パワードスーツ部隊ね」
「そうです」
「その……
クスリと笑う晶子であったが、ゴルディアスは赤い三つ目を激しく点滅させて抗議した。
「左遷ではありません。任務遂行の為にここにいます」
「任務ですって?」
今度は晶子が足を止めてゴルディアスをじっと見つめる。
「任務です。守秘義務がありますので具体的なお話はできませんが」
「本当に?」
「本当です」
晶子は眉間にしわを寄せ腕組みをしている。「そんなはずはない」と呟きながら。その様を見つめていた球磨はパンパンと両手を叩き二人を促した。
「無駄話はそこまで。さっさと納品に行きますよ」
球磨の呼びかけに応え、二名は並んで歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます