第2話 依頼者の事情

 依頼者の名は霧島きりしまさき。今は皺くちゃの老人だが、過去には各方面で活躍した大女優だ。彼女には双子の妹がいたのだが学生時代に事故で亡くなっている。今回の依頼は彼女の屋敷で使用している家事支援アンドロイド晶子あきこを、双子の妹そっくりに改造することだった。


「ユズハとゴルディアスは筐体の分解にかかれ。セミラミスはAIのプロテクト解除だ」

「承り」

「了解しました」


 黒いエプロンドレスをまとったユズハと、赤い三つ目が光る無骨な軍用アンドロイドのゴルディアスが作業に取り掛かる。ゴルディアスの両手は各種工具が組み込んである特別製なので作業は早い。


「球磨様。このAIは……RHevo.系。超高級品ですね。プロテクトを突破すると自壊する可能性がありますが」

「わかっている。そうならないよう作業するのが貴様の仕事だ。セミラミス」

「面倒なんですけど」

「口ごたえするのか? 減俸するぞ」

「そんな脅しには屈しません」

「ほほう。ならば、貴様のフォルダー内にある萌え絵を全て消去……」

「待って! それだけは勘弁してください。完璧にやって見せます」

「それでこそだ、セミラミスよ」

「はは。マスター球磨の仰せの通りに」


 工房の基幹AIであるセミラミス。彼女はAIであるはずなのに何故かお茶目である。


「それでは資料映像を確認しようか。セミラミス、再生しろ」

「はい」


 球磨の眼前、デスク上のモニターが古い映像を映し出す。そこには雪の中で遊ぶ幼い二人の姉妹が映し出されていた。よく似ているが一卵性双生児ではないようだ。


 次は思春期を迎えた二人が誕生日パーティーで祝福されている映像。二人とも美しく成長している。やはり瓜二つではない。姉のさきはやや色黒だが胸元が豊かで肉感的な体つきをしている。妹のあきは似たような体形だが色白で姉よりはややスリムだ。


 次は庭の映像。色とりどりの花が咲き乱れる凝った趣向のレイアウト。オリンポス市において、このような庭を実現するには空気の遮断と暖房設備が必要で、咲の家庭が高所得である事がわかる。ガーデニングが家主の趣味なのだろう。その成果を映像に収めている最中といったところだ。


 そこに突然、人が落ちて来た。色白でロングヘアの彼女は全裸だった。カメラが倒れたのか映像はそれで途切れてしまったが、音声は入力されていた。周囲が騒然とする中で「ごめんなさい。晶ちゃんごめんなさい」と嗚咽を漏らす咲の声が繰り返し再生されていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る