第20話 フィアラはダインにプレゼントする

 私が手に入れた大金は予定通りに動いた。

 これでやれるだけのことはできたかな。


 屋敷に戻り、中庭にて。

 一緒に大金を運ぶのを手伝ってくれたダイン様が何度も私に確認してきた。


「本当にこれで良いのか? せめて半分くらいは自分の対価としてとっておいても俺は良いと思うんだが」

「これからのお金は、ここで働かさせていただいた給金でまかなえるかと思いますし。それに全部使っても足りないと思うんですよね……」

「フィアラが決めたことだ。俺はとやかく言うつもりはない。本当におまえは人想いなんだな」


 ダイン様が私の頭をナデナデしてきた。

 褒めてくださっているのだろう。

 今回の私はつい、てへっとした態度をして照れてしまった。


「手伝ってくださり、ありがとうございました。実は今回のお礼にダイン様にもプレゼントを用意していたんです」

「なんと!?」


 ダイン様が大袈裟なくらい驚いていた。

 すぐにそわそわとした動きをしているから、なにを貰えるのか楽しみにしてくれているのかもしれない。

 だとしたら、私はすごく嬉しい。


 先日初めていただいた給金を使って、街へ食料の仕入れをしたついでに買っておいたものである。


「これです。受け取ってくれますか?」

「開けて良いのか?」

「もちろんです」


 ダイン様は楽しそうにしながら、包装紙を丁寧にとっていく。

 最後に箱を開けると、そこには私が選んだ物が入っている。


「おおぉぉ! これはネクタイか!」

「はい。普段あまり着けていませんでしたから、もしこれを着けてくださったら嬉しいなぁと思ってつい……。申し訳ありません。私の趣味で選んでしまって」

「そんなことはない。むしろ、フィアラから褒美を貰えるなんて嬉しくて死にそうだ」

「いや、死なれては困りますが……」

「大丈夫だ。今着けてみても良いか?」

「もちろんです」


 ダイン様は、ネクタイの装着にかなり戸惑っていた。

 普段から使っていないし、いきなりネクタイの装着はどうやったら良いのか難しいのだろう。

 これも、実は私の計算だった。


「こうやって着けるんですよー」

「お、おい……!」


 私はダイン様の胸元に手を近づけて、至近距離に迫った。

 遠慮なくネクタイを綺麗に結び、最後にキュッとひっぱり、ピシッとした格好に整えた。

 これを私はダイン様にやってみたかったのだ。

 やっている最中ドキドキ感で溢れ、さらにダイン様の荒めの息が顔に吹きかかっていた。

 私はダイン様のことが好きで仕方なくなっていたのだ。


「とてもお似合いかと思います」

「ふーむ。これがネクタイか。今まで堅苦しい格好は避けてきたが、フィアラのプレゼントならば毎日つけよう」

「ありがとうございますっ! すごく嬉しいです!!」

「俺も最高の気分だよ」


 もしかして、ダイン様も私のことを意識してくださっているのでは? と、淡い期待をしてしまう。

 だが、私たちの関係では結ばれることは難しいだろう。

 私とダイン様は主従関係であるのだから……。

 私はこのとき、そう思っていた。

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