第19話 フィアラは今までの給金を受け取る

 ダルム様の体調不良から三日後。

 私は侯爵様に呼び出され、彼の部屋へ入るところだ。

 侯爵様から改まったかたちで呼び出されるときは、必ず大事な案件になる。


 私は普段よりも気を張って部屋のドアをノックした。


「来たか。入りたまえ」

「はい、失礼します。……すごい……!」


 部屋に入ると、侯爵様のテーブルの横には大金が置かれていた。

 これはいったい何年働いたら稼げる額なんだろうと思いながら、つい声に出てしまった。


「驚くことはない。これはすべてキミの金だよ」

「はい!? どういうことですか?」


 さすがにこんなに働いた覚えはない。

 ダルム様の体調不良中にやっておいた書類関係の報酬だとしても、ありえない額である。


「正確に言えば、今までキミがデジョレーン子爵家で頑張ってきた分の給金と言えば良いだろう」

「給金ですか? どこからそのような大金を……?」

「デジョレーン子爵から回収した」

「へ?」


「キミが無理やりデジョレーン子爵から仕事を強要させられていた分だ。彼は働きもせずに年俸を当然のように受け取っていた。そのようなことは私は断固として許さぬ。本来このような金は、働いた者が受け取るものだ」

「し……しかし、それにしても多すぎませんか?」


 私は王宮での年俸がどれほどなのかはわからない。

 それに、実感が湧かないのだ。

 こんなに書類関係の作業をやってきたのだろうか。


「これはあくまで私の計算によるものだが、キミは十年ほど子爵のやるべきはずの仕事を承っていたのでは?」

「多分そのくらいだと思います。どうしてわかったのですか?」


「元々子爵は仕事でミスが多かったのだよ。だが、十年前を区切りにやたらと丁寧な書類内容に変化した覚えがあってね。もしもそれがキミの行いだとすれば、王宮では子爵がダラけているのにもかかわらず、なぜか提出する書類が完璧だった理由も納得できる」


 そっか。言われて改めて思うと十年もやってたんだな。


「子爵は十年もサボっていた仕事を再開したからこそ、ミスが多かったのだろう。仕事をサボるから大変なことになってしまうことも反省してもらわねば困る。はっきり言って、十年分の給金には見合わなくてすまないが、受け取ってくれたまえ」

「ありがとうございます?」


 本当に受け取って良いのかわからないため、つい質問するような言い方で返事をしてしまった。


「何度も言うが、少なくてすまぬ」

「いやいやいやいや、むしろこんなにたくさん……」

「はっきりと言わせてもらうが、キミの十年分の仕事の出来は完璧だった。本来ならば、十年分に子爵に払っていた年俸と同額分の価値がある」


 侯爵様が頑張って用意してくれた大金だ。

 これは受け取れないと言っても失礼になってしまうだろう。

 ここは言われたとおりにしておく。


「では……遠慮なくいただきます。ありがとうございます!」


 私はいきなり大金持ちになってしまった。

 だが、この大金を受け取った瞬間、なにに使うか決めた。


 すぐにでも行動にうつすことにしよう。

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