第7話 迷子のセレナちゃん

ー競魔会会場 廊下ー



「なによこの会場…!広すぎじゃない‼︎」


私…セレナ=アレストレアは道に迷っていた。

一回戦第三試合、桜田幸君と久遠悠馬君の試合を見た後私は入場口へと向かったのだけれど5分もしない内に道に迷ってしまった。

試合と試合のインターバルは10分、私が道に迷ってから何分経っただろうか。


(もしかしたらこのまま間に合わないのかな…)


競魔会において、試合開始時刻に間に合わなかった場合は負け扱いとなる。

そのルールをセレナは知っていた為余計に不安だった。

焦っても良い事は無いという事はセレナにも分かっている。

しかし──もし間に合わなかったら。と考えると焦らずにはいられなかった。


(急がなきゃ…!急がなきゃ…!)


最悪の場合、とっておきを使えば間に合うかもしれない…と考えが浮かぶが、その考えをセレナは捨て去る。


(とっておきは身体にかかる負担がとても大きいからここで使うわけには…!)


道が分からないまま刻々と近づく試合開始の時刻。

しかし、神は彼女を見捨てなかった。


「…あれ?なんでこんな所に人が?」


廊下へと響く私以外の人の声。それはつまり…


───他の人が、来てくれた。


声をかけてくれたのは白色の髪に黒色の瞳を持つ男の子…先刻まで激闘を繰り広げていた久遠悠馬君だった。


「えっと…こんな所でどうしたの?」


「あ、あのっ!入場口って何処ですか…!?」


いきなりタメ口なのは私の身長が同年代の女の子と比べても小さいから子供っぽく見えたのだろう。

やや食い気味に質問した私に久遠君は少し驚いた顔をして


「入場口…っていう事はセレナ…さん?入場口はここを真っ直ぐ行って左に曲がってそれから…」


白状しよう、私は久遠君が何を言っているのかが全く分からない。

言葉が分からないわけではなく、覚えられないのだ。

今も頭の中は真っ直ぐやら右やらでこんがらがっている。


「ええっと…真っ直ぐ行って左に曲がって…また左に曲がって真っ直ぐで……?」


だめだ、覚えられない。

そう、私…セレナ=アレストレアは…『方向音痴』なのだ。

私は久遠君に正直に話す事にした。


「…ごめんなさい!私…教えてもらっても覚えられなくて…っ‼︎」


「そうだったんだね…じゃあ、一緒に行こうか?」


「え…?」


私は久遠君が言っている事が分からなかった。

いや、なぜ他人にこんなにも優しくしてくれるのかが分からなかった。


「あ、もしかして嫌だった…?」


驚いた顔で固まっているセレナを見てもしや余計なお世話だったのでは?と悠馬は思いこう付け加える。


「全然嫌というわけでは…!ない…です…」


固まっていたセレナはその言葉を聞き慌ててそう答える。


《呼び出しを行います。1ーA、セレナ=アレストレアさん、試合開始時刻が迫っていますので入場口までお急ぎください。繰り返します…》


「い、急がなきゃ…!」


「じゃあ、入場口まで行くからついてきて!」


(久遠悠馬君…すごく優しい人なんだな……変なの。)


セレナはそんな事を思いながら悠馬の後に続いた。

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