第3話 開会式

ー特訓開始から2カ月後ー





「えー本日は天候にも恵まれ…」


(ミネルヴァ校長の代理で開式の挨拶をしているのは教頭である……誰だっけ)


悠馬は心の中でナレーションの真似事をできるぐらいには暇だった。

横目で周囲を見渡しても真面目に話を聞いている人はほとんどいない。


まあ集会の場での先生の話なんて真面目に聞くやついないし…(by 作者)


「教頭先生、ありがとうございました。では次は…」


悠馬がぼーっとしていると司会進行役の生徒が式を次のプログラムへと進める。


「昨年度トーナメント総合優勝者の久遠遥さん、よろしくお願いします。」


「はい!」


「ふぇあ⁈」


驚いて変な声が出た悠馬は慌てて口を押さえる。


(姉さんって去年の総合優勝者だったのか…‼︎)


総合優勝者、つまり昨年度の在校生の中で一番強い生徒。

遥の秘密を知っている悠馬にとって、遥が総合優勝者だという事は信じられない事ではないがそれでも驚きの事実だった。

そうするうちに遥は軽く礼をし、口を開く。


「皆さん、今日は競魔会です。今まで培ってきた力を全て出して競い合いましょう!…っと真面目なあいさつはここまでにして…決勝戦で君を待つ!私を越えれるもんなら越えてみろっ‼︎‼︎」


何処からか笑い声が起こる、あっという間に生徒中に笑いが伝播した。

遥はそんな生徒達を見てうんうんと満足そうに頷いた後自分のクラスへと戻っていく。


(何やってんだよ姉さん…)


悠馬は呆れながらもその顔は笑顔だったが悠馬がその事に気づく事はなかった。

こうして、競魔会は幕を上げた。


競魔会1年生の部は開会式後すぐに開催される。

くじ引きの結果、悠馬の一回戦は第三試合になったのでどうやって時間を潰そうかと歩きながら考えていると肩に何かがぶつかったことに気づいた。


「うわっ⁈ご、ごめん…!」


「いや、おかまいなく…ん?君、名前は……」


悠馬が謝りながらぶつかった人の顔を見る。

赤みがかった黒色の髪を持つ男に抱いた第一印象は「イケメン」だった。

名前も知らない男は自分の名前を知りたがっているという事に気づいた悠馬は


「えっと、1ーEの久遠悠馬です…」と答えた。


すると男は先刻まで浮かべていた悠馬を気遣う表情から一転して顔を顰める。


「僕は1ーAの緋村天馬ヒムラテンマだ。お前…久遠遥の弟か?」


「そうですけど何か?」


いきなり姉を呼び捨てにされて悠馬が少しムッとした顔で質問に対して肯定の意思を示すと天馬と名乗った男は悠馬を侮蔑した目で


「そうか、僕はアイツを一生許さない。アイツの弟のアンタに恨みはないが、トーナメントで当たったらお前を殺すつもりでやるから覚悟しとけよ。」と吐き捨てた。


そして天馬は「じゃあな」とだけ最後に言うと足速にどこかへと行ってしまった。


《1ーE 久遠悠馬君、スタンバイお願いします。繰り返します、1ーE 久遠……》


天馬と話している間に時間が経ったのか…と悠馬は驚き入場口へと向かう。


(アイツは姉さんを恨んでいた…?でも、なんで…)


悠馬はなぜ天馬が遥に対してあれほどの敵意を持っているのか分からなかった。


(とりあえず目の前の事に集中しよう)


悠馬は一旦考えることを中断し、入場口までの道を走った。

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