第0話 エピソード零(後編)

ー久遠家ー


鑑定会当日、日も傾き始めている中、久遠家は朝の賑やかさからは一転してお通夜ムードであった。

誰も一言も話さないその静寂を破ったのは悠馬ではなくその姉だった。


「えっと…ゆ、ユウ君…大丈夫だって‼︎……ほら、、元気だして…?」


心配そうに、それ以上に申し訳なさそうに声をかけるが、俯いたままうんともすんとも言わない悠馬を見て遥は内心頭を抱えていた。


(どうしてこんなことになっちゃったんだろ…まさかユウ君が…………『無能者』だなんて…)




無能者───『鑑定を受けても固有魔法が発現しなかった者』を指す。




時は数時間前に遡る。




ー王立魔法高等学校ー


「どういうことですかっ…⁈鑑定不能…って」


「はあ…だからねぇ…久遠悠馬君、君は鑑定しても固有魔法が何かわからなかった。つまり固有魔法がないんだよ…つまり君は無能者ってワケ。」


訳がわからないといった様子で尋ねる悠馬に対し鑑定士の男は少し面倒臭そうに顔をしかめながらそう告げた。


悠馬は無能者という単語が何を指すのか知っていたため余計に鑑定士の男の言ったことが信じられなかった。


(俺が無能者…?嘘だ。そんなわけ……)


「な…っ、何かの間違いじゃ……」


「だから、お前は無能者なんだよ‼︎後がつかえてるからさっさと帰れ!」


鑑定士はそういうと悠馬に重ねてさっさと帰れと促し、外に出た(つまみ出された)悠馬は半ば放心状態で家へと戻った。

そして家で待っていた遥に悠馬がこの事を告げ、(もちろん遥も大きなショックを受けた)遥の提案でこれからどうするのか話し合う事となった。

──そして現在に至る。


ー久遠家ー


久遠家では未だ話がまとまらないでいた。


「あのっ…ユウ君は私が守るし養うからその……あんまり気にしすぎるのも良くないよ…?固有魔法がないからって生きていけないわけじゃ…」


「…でも誰も守れない‼︎俺は…もう、もう誰も失いたくない……!」


「ユウ…君」


遥の脳裏にある少女の姿がよぎる。

そして遥は大きく息を吸った後、落ち着いていてそれでいて覇気を感じさせる声で弟へと声をかけた。


「ユウ君…いや、久遠悠馬。」


いつにもなく真剣な姉の姿に悠馬は驚く。


(もしこの提案をユウ君が呑んだら、ユウ君はきっと茨の道を歩むことになる…でも…!)


遥は正直こんな提案をしたくなかった。

固有魔法が発現しなかったのもある意味幸運だと思っていた。

強力な固有魔法をもつ人間は戦争が起こると主力として最前線で戦わなければならない。

龍や魔族は自分達では表立って戦わず、いつも人間達に戦わせる。

つまりいずれ同じ人間を、殺さないといけない。

悠馬には穏やかな人生を送って欲しかった。

しかし、悠馬自身が望むなら。誰かを「守る」為の力を欲するなら。




「私が…貴方の事、強くしてあげる。」




これが伝説の始まり。英雄譚の0ページ目である。

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