第17話

ヘンリーがペガサスの馬車を連れてマーレ島に来た。

あちこちお世話になった人に挨拶をしていく。

カイに挨拶したら、驚いて大泣きされてしまった。

「ずっといると思っていたのに」

「てっきりシシィ様の奥方になるかと思っていました」

「まさか。私のようなものが無理ですよ。貴族ではないし」

カイの父親に驚かれた。

「だって、あのダンスの日…」

口に指をあてた。

「カイ、シシィ様は酔っていらしたのよ」

「そうなの?」

「そうよ、だって執事さんも抱きしめていたもの」

「…」

嘘だ。

シシィ様はワインを作る工場にいって、試飲をたくさんされる。

あれくらいでは酔わない。

何か事情があるんだとカイの兄は思った。




「長い間お世話になりました」

「荷物が少ないですねぇ。マーレ島のドレスはお入れになられたのですか?」

「ええ、元々少なかったので」

トランク鞄が二つだけだ。

「カイには会ったのですか?」

「ええ、昨日のうちに」

侍女たちは大号泣だ。

私が泣きにくいわーとビオラは笑った。

来ている服は、最初にもらった伝統的な服だ。

ビオラが気に入っていたので、着て帰ることにした。

トトは、仲良くなった料理人と抱き合って泣いている。

あの夜会の時にかなり飲み明かした仲だ。

「また来るぜー!」

「おう、待ってるぜトト!」

私は簡単に言えない言葉ね…

「またゆっくり来てください。お祭り残念でしたが」

「本当に。楽しみにしてましたが。次の機会に」

カイトと握手をする。


「帽子は持っているな?」

「シシィ様。はい、頂いた帽子は持っています」

「それさえあれば、私がいない時でも城に入れる。何かあったらすぐにこい」

「…はい」

だめ。

泣いちゃう。

こまらせることになるわ。

「元気で。王島に行くときは会いに行く」

「はい。お待ちしています」

そっとシシィは包み込むようにビオラを抱きしめた。

ビオラもしがみつくようにシシィの腕の中に潜り込む。


帰りたくない。

ああ、これは予感だ。

もう来れない気がする。


「シシィ様…」

「うん」

目を合わせた。

涙がこぼれた頬をシシィは大きな手でそっと拭いた。

その手を大切にビオラも包み込む。

何かを飲み込むように、うなずいた二人だった。

さよならも言わなかった。

そのまま、ビオラは泣き顔のまま馬車に乗った。




「色々ありましたね」

「3カ月しかたってないなんて、思えない」

「私が帰った後も何かあったのかい?」

「夜会を」

「ほう」

「でも王島の貴族の夜会と違ってとても楽しいものでした」

夜中まで、明かりがついて。

「ね、トト」

「凄い飲んだぜ」

「街の知っている人もいて、踊って話して笑って」

「残りたかったですか?」

「!!」

「そう、そうですね。できたらずっとずっといたかったです」

あはっと笑いながらビオラは大泣きしていた。

「ずっと…でも迷惑がかかります」

「シシィ殿はそんな人では」

「いいえ、きっと渦巻人を返さないと陛下に言われます。魔法省にも言われるでしょう」

「!!」

「シシィ様が責められる…そんなの嫌です」

「…」

「だから、帰るのです」

「ビオラ…」

「ヘンリー様にも迷惑がかかります。きっと。戻らないと」


そう、君は人質のようなものなんだ。

シシィの。

弱点として。


「また、これますよ」

ヘンリーは泣くビオラを抱きしめた。



泣いていた。

帰りたくなかったんだ。

あのまま抱きあげて城に戻してしまいたかった。

「帰らないと迷惑がかかります」

そんなこと気にするんじゃない。

なんでいつも他人のために生きるんだ。

この島は強固だ。

今でも恐らくウロチョロしている王島の犬などに何をつかまれてもびくともしない。

お前の方が心配だ。

いつか迎えに行けたら。


シシィは馬車が飛んで行った方をずっと見ていた。

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