第12話
「緊急事態発生!緊急事態発生!」
大きな声で、広場の上空を飛び回る鳥が現れた。
「トト!?」
「何だ?何を言っている?」
「ダイヤ島に魔物が現れ、襲撃された!死傷者多数!島主のシシィ殿はどちらかっ!」
な、何だと!?
「おう!シシィは私だ!」
カイトの騒ぎを聞きつけて広場に来たシシィが、声を上げた。
トトは、ばさあっと広場に降りた。
「ダイヤ島に火の鳥のような魔物が現れ、辺り一面を炎で燃やし尽くしていった。マーレ島の騎士も燃やされている!至急、手助けしてほしい!」
城のある方向からは、ダイヤ島は見えない。
シシィは、すぐに偵察隊と城の一部を救護所にするように指示をした。
「ランサー!」
ルークは、指笛を鳴らした。
「ルーク、竜はこの城には無理だ」
「トト、俺はこの城育ちだぜ?ランサーは許可を取ってある」
にやっと笑った。
「トトは無事だったのね?」
シシィがトトの話をすぐ信じたのは、その風貌からだった。
トトはすすだらけで、灰色になっていたからだ。
体から燃えたような匂いがしていた。
「ああ、ヘンリー様と一緒にいたからな。ビオラ、ミアが…」
初日に会っていた竜の名前だ。
涙声だ。
「ミアがどうかした?」
「乗っていた騎士と共に一瞬で焼かれた」
「!!」
「今はどこに行ったんだ?その魔物は」
「わからない。何かを探していたようだったけど」
「探している?」
ルークとビオラは顔を見合わせた。
広場は、先ほどとは違う混乱をしていた。
「ビオラ、話はまだ終わっていないぞ」
カイトが口を挟んだ。
「なんだい、この坊ちゃんは?」
「坊ちゃんではない、シシィの息子だ!何だ、このペリカンは!」
「トトだ。坊ちゃん、腹をくくれないなら、ついてくるんじゃねえ!」
「はあ?誰に向かって言っている?」
「地獄だぞ!坊ちゃんには無理だ!吐くぞ!」
「行くぞ、ビオラ!」
「トトも乗って!状況を教えて!」
ランサーが砂ぼこりを上げながら、上空に到着した。
「待て!俺も乗せろ!」
ちらっとルークはシシィを見た。
短くうなずく。
「カイト乗れ!護衛は後から来い!兄貴、薬を頼む!」
ランサーは、風を巻き上げながら城を飛び去った。
「火の鳥って言ってたわね?」
「わからないんだ。炎を吐くとしか。飛んでいたから、鳥なのか、魔物なのか」
「何かを探していたっていうのは?」
「名前を呼んでいたらしいんだ。俺も聞こえたが、何と言っているのかわからなくて」
「見えた!え!?」
ビオラは、声を出せなかった。
ダイヤ島はほぼ燃えてくすぶった煙があがる。
焼かれた竜と人の遺体が何体か横たわっていた。
焼け焦げたテント、岩は赤く溶けている。
海に岩が今でもガラガラと音を立てて落ちていく。
その度に海から水蒸気が上がる。
マーレ島側も襲撃を受けたらしく、木々が燃えていた跡が残っていた。
ランサーは旋回をして、3人を降ろし崖の上に着地した。
地上に降り立った3人は言葉を失った。
鼻を付く焦げた匂い、熱風が吹き荒れる。
簡易式の担架にケガ人が乗せられ、運ばれていく。
「ヘンリー様!」
マーレ島側は、ケガ人であふれていた。
「ビオラ、無事だったか」
「ヘンリー様こそ、御無事で」
「ああ、火炎の石がなかったら死んでた」
「火炎の石?」
「回復魔法師どのが持っていて、結界を張れたんだ」
「良かった!」
「兄に言って薬と人の手配をお願いしています。王島には?」
「ルーク、助かる。無事だった竜騎士に至急飛んでもらった。トト、ありがとうな」
「俺も死んだかと思ったぜ」
そこへ、城からの応援部隊がきた。
あまりの凄惨さに言葉を失う。
「ヘンリー様、魔石はありますか?」
「治療に使っている。回復魔法師の所だ」
トトをヘンリーにまかせた。
ルークも気分が悪くなったカイトを城の衛兵に預けに行った。
すう。
ビオラは両手にものすごく小さな魔石を握った。
深呼吸をする。
この前は無理やり一つにしたから反発がはげしたかった。
落ちついて。
石を感じて。
元は魔物とは言え、一つの生命。
一つ一つの生命を一つの違うエネルギーに変える。
手が熱くなってきた。
そっと手のひらを合わせる。
ゆっくりと開くと青い石が光を放っていた。
「ビオラさん」
回復魔法師が驚いた。
「これから精製に入ります。治療に使ってください」
くず石と言われている爪の先ほどしかない魔石をたくさん手に握り、手を重ねた。
ビオラは女神の呪文を唱える。
「魔法陣なしで…」
青い光が彼女を包む。目が青く輝く。
最早、能力が暴かれる暴かれないなどど言っている事態ではなかった。
とにかく治療のための魔石をたくさん作る、そのことだけを考えていた。
彼女の覚悟を見た回復魔法師や治療師は、その魔石を使いできるだけの治療をしていく。
昼を過ぎた頃に、王島から救護班が到着した。
団を率いていたのは。
「宰相のモーガン・サンドマンです。こちらは魔法省長官チャパティ・ヘンドリックス」
ビオラを執拗に、海上島送りにしたかった2人だ。
ひたすら動ける竜やペリカン達を動員して負傷者を城に運び続けた。
遺体はそのままダイヤ島に安置している。
松明がたかれ、日が暮れても島中が明るかった。
「ビオラ。城に行こう」
ルークが声をかけた。
遺体にお祈りを捧げていた。
「私を探していたのかしら?」
「え?」
「渦巻人である私を探していたのかしら?」
「たぶん、その話もあると思う。行こう」
ゆっくりとランサーは羽ばたいた。
「お話をまとめると、今朝早くに魔物狩りに行った部隊と入れ違いに、火の鳥のような魔物が島を襲ったということですね?」
宰相が、会議のテーブル上でメモを取りながら話を進めていく。
メモはビオラが考案したトウモロコシからできた安い紙だ。
「そうです。私たちの部隊は、35機の編隊を組んで魔物島に向かいました」
レオン団長が説明をする。
竜騎士は、ルークとあと一人たまたまマーレ島側にいて助かった一人が証言するため、部屋の隅で立っている。
他にマーレ島の兵もいた。
「ダイヤ島に最初いたのは58機。その内、海上に降りた2島に向かったのは14機。この部隊は?」
「エライン島ロウハ島の部隊、共に異常なしです」
「では残り9機がダイヤ島で待機していたということですね?」
「はい。最初にダイヤ島上空にいつの間にか現れました。上空から炎を吹きかけられ、あっという間に6機が燃やされてしまいました。残りは、体の一部に火傷を負っています」
生き残った騎士の言葉に、みな口をつぐんだ。
あの跡を見ても想像できるが、実際はその数倍恐ろしい瞬間だっただろう。
「ヘンリーはその時は?」
「マーレ島側の本部にいました。こちらの薬師、回復魔法師のお二人も同じです」
真っ青な顔色の二人も同席していた。
「海上島の兵の方たちと外でお茶を飲んでいる時でした。轟音と共に、赤黒いものが現れて…」
「私が炎を避ける石を持っていたので、吹きかけられても結界を張ることができました」
「その石とは?」
ようやくシシィが声を出した。
「火炎の石と呼ばれています。魔物の中でも、サラマンダーと言われる火トカゲから取れた魔石のことです」
「なるほど、サラマンダーか。続けてください」
「私たちの円陣に入っていた兵隊さんは、無事でしたが、円の外にいた人たちは…」
一瞬で燃やされた、のだ。
「その魔物、何か話していたとか?」
「ああ、はい。私には「「イーサン、どこ?」」と聞こえました」
「探していたっていうのは、イーサンのことか?」
レオン団長が、回復魔法師に聞いた。
「ええ、どこ?どこ?と何度も言っていたので」
「イーサン!!」
レオン団長、及び竜騎士たちは、その名をうめくように呟いた。
「どなたです?」
「イーサン・ダグラス。15年ほど前にいた竜騎士です。何度か見かけたことがあります」
「王島の騎士団ですか?」
「いえ、確かロウハ島だったかと」
「今はどちらにいるのですか?」
答えにくそうだったが、ため息を一つついて答えた。
「死にました。魔物島の魔物狩りに出かけた時に」
「もしかして、その相棒の竜が?」
団長はうなずいた。
「恐らくは、その赤黒い火の鳥のような魔物が、相棒の竜かと。四つ羽の竜のサルビアだと思われます」
四つ羽の竜。
ましてや、炎を吐く竜など。
聞いたことがない。
イーサンの話は、竜騎士団の中では有名だった。
四つ羽の竜を相方に選んだイーサンは、数々の魔物を駆逐した。
その褒美をねたむものが出てきた。
最初は、連絡ミスからだった。
魔物島に魔石を狩りに行った時、方角が変更されたことを知らされなかったイーサン達は、孤立してしまった。
戦わず、飛んで上空から確認すればよかったのだ。
騎士に忠実だったイーサンは戦いながら道を切り開こうとした。
だが、時間と共に助けのない戦いは不利となり、とうとうイーサンは魔物の毒にやられて死んでしまった。
泣くサルビアの声で、イーサンの死を知ると、卑怯者の竜騎士達は、サルビアも始末しようとした。
四つ羽の竜は魔物の証と言って、羽を焼き切ろうとした。
会話の中から、イーサンははめられて死んだことをサルビアは知る。
『お前たちがイーサンを殺した』
怒ったサルビアはその竜騎士達を倒し、そのまま消えてしまった。
「今まで消息を聞いたことがない。そして、その話は竜騎士団の中では禁忌だ」
「殺されたイーサンの遺体を探しているのか」
「たくさん竜騎士が来ていたから、記憶がよみがえったのかもしれない。とにかく、どこへ行ったのか捜索しないと」
動かせるケガ人や遺体は、翌日、王島に運ぶことになった。
四つ羽の竜、サルビアはそのまま捜索。
会議は解散となるはずだった。
「そもそも、竜騎士が多すぎたのでは?」
シシィが一言いうだけで、その場が凍る。
「私も反対したのです。これだけの騎士を集めて、他の島が手薄になります。何かあったらどうするのかと」
魔法省長官が嫌味たらたらで述べる。
「それだけビオラ嬢が心配だったということだろう?ヘンリー?」
「!!」
「さすがですな、このシシィの情報をもってしてもビオラ嬢が何者なのかわからなかった。魔石を統合できる珍しい力。確かに欲しいですな」
がたっとレオンが席を立つ。
いつの間にかビオラが座っている壁際の席の横にルークが静かに移動していた。
ピリピリしている。
「見ただけでわかるかなりの腕利きの回復魔法師、そして特級の薬師と薬草の量だけでもわかる」
カイトが驚いて、薬師たち二人を見つめた。
「そして、彼女自身の護身術の高さ。つまりそれは」
シシィは静かに立ち上がり、ビオラを見つめた。
「自分が狙われる可能性が高いということを知っている人間だ」
ビオラも静かに立つ。
ああ、この人は怒っている。
私のせいで島の兵を失ったことに。
「何者だ、君は」
はぐらかすのは無理だ。
「私は、7年前に現れた渦巻人です」
「何だって?」
カイトが大声を出す。
「それも、ビオラート・スコットリアという少女の体に転生した人間です」
ふーっと大きく息をシシィは吐いた。
「27才の女性と聞いていたが?」
「中身が、です。今は34才。本名は、日和見すみれと言います。王島に移動するとき、狙われないように中身の年齢で噂を流してもらいました」
うなずきながら、ルークを見た。
「お前は最初から見ていたのだな」
「はい、兄上。だから、守るために忠誠を誓っているのです」
それだけではなかろう?
そう思ったが口にはしなかった。
「完全に情報を漏らさないようにしていたか。さすが、ヘンリーだな。ビオラ嬢が大切な人というのはわかった。話を聞くに、今回の事件とは別だな」
「シシィ殿」
「すまなかった。火の鳥のような魔物が探しているのが、ビオラ嬢の事かと思ったのだ。違うようだな」
そうでしょうか?とまだ、長官は食い下がった。
「聞きましたよ、職場放棄したって」
「!!」
「まったく、あなたが現場にいたらどうにかできたんじゃないんですか?」
「はあ?あの状況でどうにかなんてできっこないだろ?」
「家畜は黙っていてください」
「てめえ!」
トトが長官チャパティに飛び掛かり、帽子と髪の毛をぼさぼさにした。
何する?!と長官は抵抗したが、ボロボロにされた。
ビオラがトトをなだめるまで、誰もかばおうとしなかった。
チャパティ長官は少し嫌われているようだ。
「いや、それは私が城に連れてきたからだ。彼女のせいではない」
シシィが即効性の眠り薬入りのお茶を飲ませたことは、大体の人間は知っていた。
「炎に巻かれなくて良かったと思っている」
静かに語るその言葉に、被害を最小限に抑えられて良かったととらえられた。
「眠れないか。何か暖かいものでも運ばせようか?」
見晴らしのよいルーフテラスで、ぼんやりと港を眺めていたビオラに、声がかかった。
「シシィ様。ありがとうございます。大丈夫です」
少し離れてシシィも街並みをみた。
すっかり家の明かりも消えて、街は真っ暗だ。月も出ていないから、かなり暗い。
シシィとビオラが持ってきたランプの明かりだけが照らしている。
遠くからかすかに波の音が聞こえた。
「渦巻人であることを黙っていて申し訳ありませんでした。私の一存で話すことはできなかったので」
「仕方あるまい。みなが必死に君を守っている。それをむげにはできまい」
「…そんな偉い人間ではないのに、こまる時があります」
「こまる?」
「こちらに来て、7年たちますが、未だにこの道は正しかったのかと自答しています」
「この道とは?」
「8才のビオラートに転生した時、彼女は家族に虐げられていました。食事も服も寝るところも与えられない日々。未だに背中には消えないムチの跡があります」
「不愉快な家族だな。誰も助けなかったのか」
「ええ、手を貸そうとするとその大人が親に罵倒されるのを見て、ビオラートは助けを呼ぶことをためらうようになりました」
「…」
「そんな中、私がビオラの体に移ったのです。前世では、27才の大人で仕事もバリバリこなしていました。最初は、呪いました。今までやってきたことが台無しになると」
「まあ、そう思うな」
「やるせない思いを抱えながらビオラの中で生きていたとき、女神の力を借りて彼女と話す機会がありました」
選択肢は、色々あった。
このまま、二人で共存。
虐げられていた家族がいなくなれば、ビオラに体を返す。
「最後は、言葉にできませんでした」
「君に体を預けたままでよいかということか?」
うなずいた。
あの時、光のビオラートはこう答えた。
「『もう疲れた』彼女は生きることに疲れていました。日が沈み、また昇る前にこのまま死んでしまいたいといつも願いながら横になっていました」
「8才の少女がか?」
「ええ。それほどまでに疲れていました。そして、私がそのままビオラートとして生きることになったのです」
「そうか、かわいそうな子だったな」
「未だに私がこの人生をもらって良かったのか、自問自答しています。他に方法はなかったのかと」
「まあ、それが一番だと思うが。何がこまるんだ?」
「だって、だって…」
言葉につまるビオラを見ると、遠くを見ながら泣いていた。
「こんな風にシシィ様と話しているのは本当はビオラートのはずなのに。美味しいものを食べたり、ここなら眺めた美しい景色に感動するのも。本当はビオラートがするはずだった」
「それは」
「渦巻人の何が偉いのでしょう?私は前世で知っていることをただ皆さんに教えているだけなのに。私の存在意義がわかりません」
「それでも我々が知らないことを教えてもらっている。とてもありがたいことだが。加えて魔石を統合する能力なんて初めて見たしな」
シシィは、肩に手を置いた。
「でも、それでも」
ビオラはシシィの袖を掴んだ。
「私は、ビオラートを殺してその場所を奪っているんです!みんなが私を褒めたり親切にしてくれるたびに心が痛みます。どうしたらいいのでしょう?私はビオラートではないと叫びたくなります」
今まで言えなかった心の中。
この暗闇の港町に沈めてしまいたかった。
ごめんなさい、ビオラート、と涙声で何度も謝るその姿に、シシィは何と声をかけていいのかわからなかった。
「渦巻人はみなそんな気持ちを抱えて過ごしていたんだろうな。それに君の場合は、元の体の持ち主がいたという特殊だ」
シシィは、そっと抱きしめた。
こんな体のどこにあれほどの力強さを秘めているのか。
天幕を破って出てきた彼女は意思の強い目をしていた。
ただひたすらに魔石を大きくし、治療に使えるように。
15才の少女の身体に精神は34才。考えも深い。
迷いを抱えてもあんな無茶をするのか。
本当は今も体が辛いはずだ。
その少し前、廊下を歩く音でルークは目覚めていた。
2名…誰だ?
夜着から着替えて剣を携えて、部屋の外へ。
すると、目の前をカイトが忍び足をして歩いているのが見えた。
「…!」
「しっ」
カイトの口を手で覆う。
兄貴とビオラ?
建物の陰で、二人は話を聞いていた。
ルークは腕組をしたまま、カイトは座って涙を袖で拭きながら聞いている。
「…」
そう、いつでも彼女は全力だ。
与えられた使命を全うしようと、まるで時間がないかのように何かに追われるように何事にもだ。
彼女が王島に移動した後も、ジョージ様宛ての手紙で元気だと様子は聞いていた。
そして、王島に向かった時に年に一度二度会うくらいだった。
その度、笑って大丈夫、元気ですと答える。
レオン団長から、無茶をしている話しか聞かない。
ビオラートへの
彼女を突き動かず原動力は。
ずずっと鼻水をカイトはすすった。
その音に気が付いてシシィは、そっと離れた。
ルークに、首を傾けて合図をする。
カイトを連れてシシィは部屋に戻った。
「ち、父上…」
「人には逆らえない運命というものがある。彼女に課せられたものが何なのか誰にもわからん。だが、彼女自身で乗り越えないといけないんだ」
渦巻人は突然違う世界から連れてこられる。
本人の意思は無視して。
カイトは、涙が止まらなかった。
地獄のようなダイヤ島を見ても彼女はてきぱきと動いていた。
自分が何をすべきかがわかっていた。
俺は、その時、気持ち悪くなって島の端で戻していた。
黒こげの人と竜、何かが燃えた匂い、炎の跡…
『坊ちゃんには無理だ!地獄だぞ!』
彼女は地獄を見ても大丈夫だった。
ふわっと背中が暖かくなった。
塀についた大きな手。
ルークは後ろからビオラにそっと覆いかぶさっていた。
「る、ルーク」
「よしよし。呼び捨てだな。寒くないか」
「だ、ダイジョブです」
鼻声で答えるビオラに、少し微笑んで、そのままルークはビオラを抱きしめていた。
「泣きたいだけ泣けよ。今日は暗くて何も見えないから」
「ん~」
ビオラは、子供のように泣いた。
一方で、シシィたちと同じように話を聞いていたものがいた。
目を手で覆いもう片手は壁を叩き壊さんとしそうな拳を握っていた。
「モーガン。俺たちは何のために彼女に魔石作りをさせてるんだ。彼女だけなぜあんなに苦しまなければならない?」
腕組をしたまま、壁に背もたれしていたモーガンはメガネを外した、
「俺たちにはわかりません。彼女は渦巻き人なんだから。もしかしたらまだ何かやるべきことがあるのかもしれない」
「他にやるべきこと?」
モーガンは、ヘンリーを部屋に連れ戻した。
話はかなり重要だ。
「島が落ち始めたのは、ビオラが出現してから。この異常事態と無関係とは思えません」
何百年と続いていた空中島が、海へ降りる。
確かに異常事態だ。
「ここへ来る前に確認してきたのだが、カルポス島とボタニカル島も少し高度が下がってきています」
「本当か!」
「小麦島も落ち始めたら、大騒ぎになります。麦が枯れることなどあればそれこそ一大事」
「女神が何か伝えることがあるんだろうか?」
「さあ」
ヘンリーも不気味さに言葉を詰まらせた。
この王国に何が起き始めているのか。
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