第9話

「後はとても小さな石ばかりですね」

「小物が多いということでしょうか?」

「初日だからね。3日待とう。明後日になっても大きいのがなければ、ビオラにお願いしよう」

「わかりました。先ほどの石は王島に持っていくのですか?」

「いや、慣例通りマーレ島に渡すんだ。魔物狩りで一番最初に出た大きい石は、マーレ島に捧げるんだよ」

「そうなんですか。知らなかったです」

薬師も回復魔法師もビオラも一斉に声を上げた。

「まあ、陣を引くのに島を借りているしね。借り賃ってところだね」

「なるほど」

ところが、3日たっても小物ばかりしか狩れなかった。

「魔物がいないのですかね?」

「いや、竜が探知しているんだけど、見つけられないんだ。うまく隠れていて」

「ビオラのためにも大きいのを探しているんだけどね」

「ああ、気にしないでくださいよ、私のことは」

竜騎士は、全員ビオラが渦巻人で魔石を結合できると知っている。

負担がかからないように、なるべく大きな石になる大きな魔物を探しているのだが、中々出会えないようだ。

「少しずつずらしていこう。明日以降は、こっちの方へ」

レオンが、地図を指しながら支持を出していた。

(ビオラのため?)

マーレ島の兵士が不思議そうに遠巻きに会話を聞いていた。

伝書鳩に内容を書いて城に送る。

「ビオラ嬢のために大きな魔石を探している?何のために?」

シシィは、不思議がった。

同時に、あの大きな魔石が届けられた。

「慣例は慣例として、こちらに礼はつくすか。何故だ?」

あの少女は何のために魔石が必要なんだ?



狩りを初めて7日目に事件は起こった。

戻ってきた竜騎士1名がかなりの深手を負ったのだ。

回復魔法師と薬師が必死に治療をするが、出血が止まらず、竜もケガをしていた。

「ビオラ!」

「我慢なりません。ヘンリー様、魔石を」

「しかし、君の体力が」

「私なら大丈夫です。魔石さえあれば、あれだけのケガは回復魔法師様で治せます」

魔法陣の書いてある陣幕内にビオラは入っていった。

青白い光が幕を中から照らす。

出てきたビオラの手には、子供の手のひらサイズの魔石があった。

「足りますか?」

「ビオラ…」

泣き声の薬師越しに見ると、竜騎士が息をしていなかった。

「!!」

「ジュン様、それを全部使ってください!」

「でも」

「次をすぐに作ります!死なせないでください!」

ああ、あの時冗談だと思っていたのに!

急いでビオラは、陣幕の中に入った。

「無茶だ、ビオラ、少し休め!」

ヘンリーが止めようとした。

「何のために私はここにいるのです?このためではないですか!!」

時間がない!

両手に爪の先ほどの石を持てるだけたくさん握る。

ざっと、魔法陣の上で足を滑らせた。

淡く魔法陣が光る。


目がちかちかする。

視界が黄色い。

かまうものか、何のためにここにいる?

そう、このためだ。

気合を入れろ!ビオラ!

あの騎士を死なせるな!

女神の呪文を唱え始めた。

下から逆風がくる。そのたびに膝を曲げて踏ん張っていた。



「何事だ!」

連絡を受けて、シシィが本部に到着した。

血だらけの竜、息をしていない騎士。

すべての事を一瞬で理解した。

「これは一体」

陣幕が光り輝いていた。中から強烈な風がくる。

びりりりっ!と破けた瞬間、中から青く光り輝くビオラが現れた。

両手に青い魔石を握って。

シシィはこれほどの強い目をした娘を見たことがなかった。

「ジュン様、回復魔法にお使いください。二つあれば、大丈夫なはず…」

うなずく魔法師にほっとしたのか、ビオラは膝をついた。

「うっ」

げほっとビオラは吐いた。

吐いたものは、血でも食事でもなく…

「本当かよ…」

「何で、こんなことが起きているんだ?」

海上島の兵士たちが、ざわめいた。

魔法陣から出てきたビオラが戻したもの。

それは、青く光り輝く魔石だった。

息が荒く、膝をつき、ビオラは一息ついた。

女性の握りこぶしほどの魔石は、紛れもなく光っていた。

「…中からも出てくるとは」

ビオラも意外だった。

だが、中から取り出したのに自分の体がまだ青白く光っている。

「水をもらってもいいですか」

マーレ島の兵士は、水の入ったひしゃくを手渡す。

少し飲んでから、その中に魔石を入れた。

ひしゃくが青く光る。

「ヘンリー様、どうぞ」

「ありがとう、ビオラ」

大切に桶の中から青い石を取り出した。

「ビオラ、休みなさい。体が持たない」

返事もせず、うなずいて、立ち上がろうとした途端、またげほっと吐いた。

今度は、大量の血だった。

「び、ビオラっ!」

ヘンリーはまるで自分が痛めつけられたような表情を浮かべ、ビオラをしっかりと抱きしめた。

そのまま抱きかかえ、レオンに渡し、テントに戻るように指示を出す。

が、その言葉を海鳴りがさえぎった。

「私の予備テントに運ぶといい。広いし、マーレ島の回復魔法の人間を連れてくる」

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」

いつも強気なヘンリーが大人しく従うのをみて、シシィは重大な場面に出くわしたと感じていた。

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