ユニコーン狩人の壮麗にして残酷な狩猟

真名千

ユニコーン狩人の壮麗にして残酷な狩猟

 ユニコーン狩人の春は早い。一般には若く純潔な乙女しかユニコーン狩人になることはできない。まれに紅顔の美少年専門のユニコーンもいるため、特殊個体の密度が上がったときに純潔の男子がユニコーン狩人になる場合もある。

 どちらにしても顔立ちや身体に左右の均整が取れた美しい人物がユニコーン狩人には適任である。

 ユニコーンは、彼らを狩猟対象としない国王や貴族にとっては害獣でしかないため、御料林であってもユニコーン狩人による狩猟が許されている。


 狩人はまず一人でユニコーンの棲み処を探す。一角獣たちは青白い肌の色にふさわしいジメジメとした薄暗い場所を好む。あまり広範囲を行動せず、怠惰に寝そべって過ごしていることが多い。ただし、移動する時は群れごと一挙に移動して棲み処を変える現象が見られる。

 ユニコーンの巣を見つけた狩人は荒野の探索に適した格好から白を基調とした清楚な服装に着替え、メイクをする場合はメイクと気付かせない程度のメイクをして、狩猟対象たちに近づいていく。

 水場が近くにある場合は、そこで沐浴をすることも多い。


 逆鱗に触れ、角で刺し殺されないように気をつけながら、時間を掛けて乙女はユニコーンたちを馴らしていく。三回程度の接触を目標にできるだけ多くの個体を手懐ける。

 仲良くなったからと言って背乗りをするのは御法度である。他の個体がヘソを曲げてしまう。もう少しで背中に乗せてくれそうな一角獣を同時並行で可能なかぎり多く増やすことが効率的だ。


 ここまで行ったら狩りの仕上げは目前。狩人は一旦、拠点にもどり恋人の男を連れてくる(紅顔の美少年狩人の場合も)。天幕や大切な大きな鏡も忘れてはいけない。

 群れの棲み処に近く、ユニコーンの接近が難しい高台や中洲に天幕を設営する。そして、入り口から斜め四十五度になるように鏡を据える。

 基本的な位置関係はあらかじめ設定しておき、現地での調整の手間を省く。


 準備が整ったらユニコーン狩人は着物を脱ぎ、狩人の間に伝わる歌で獲物たちを呼び寄せる。相棒は特製の皮の鼓を手のひらで打ち、パンパンとくぐもった肉の音を辺りに響かせる。

 こうして天幕の前に聞き慣れた彼女・彼の声に惹かれる一角獣たちが集まったら、男に入り口の幕を引かせる。そして、入り口に正面を向いて、片手で彼の相手をする。


 すると鏡の効果によってユニコーンたちからは見慣れた狩人が二人を相手しているように見えてしまう。一人でも大ショックだが、二人に見えることで確実にユニコーンの命を狩りに行く。

 心臓に激しい衝撃を受けたユニコーンはバタバタと倒れ、ねじれた角はポロリと外れてしまう。すべてのユニコーンが死に絶えたら、狩人たちは悠々とこれらの素材を回収するのである。ただしこの狩猟方法ではユニコーンの脳が壊れてしまうので、脳は使い物にならない。

 肉を沈めて冷やしておける点でも、やはり狩りのロケーションは清流の川べりが好ましい。


 ちなみに本当に二人を相手にしてもよい。大きな平面鏡の製造技術が安定するまでは即死力を重視して、この方法が採られることもあった。しかし、狩人本人の気持ちの問題もあり、懐きやすさが悪化することが経験的に知られていたので、鏡が使えるならその方が理想的である。


 この狩りを繰り返して得たユニコーンの角や肉体を売り払って得た資金によって、引退する狩人と恋人は壮麗な結婚式を挙行したという。めでたくなしめでたくなし。

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ユニコーン狩人の壮麗にして残酷な狩猟 真名千 @sanasen

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