第5話

「踵が上がるまで、釣ってほしい。つまり、ちょっと宙吊りぽいのをしてほしい。」

その依頼は、縄で身体を縛り、天井の梁を使って、自分を吊って欲しいとの依頼だった。

縄でのお遊びで亀甲縛りや、手足を縛るくらいは、それまで何度かやった事があったが、梁を使って、身体を吊るのは、初めてだった。

何度か違う依頼でお会いしていた彼は、どうしてもと、何度となくメールがしつこかった。

あまり生死に関わりそうな案件は、責任も取れないので、お断りさせてもらっていたが、それなりの金額で納得した。

本当は、保険もかけてから挑みたかったが、次の土日お泊まりでとの急な予定で、あちらが気に入ったラブホでとの事だった。

先ずは、縄遊びで、中国での縄で緊縛(きんばく)という縛りをやって欲しいとの事、YouTubeや写真を見ながら、見様見真似で何通りかやって写真を撮った。

それから、彼がやりたい吊りの準備、先ず何故か自前のセーラー服に着替え、10Mの縄で亀甲縛りをして、次の縄でいちもつを縛り、腕を後ろで組みそこから、梁に持っていく。

そんなに縄の技を習得していない私は、それを引っ張るのを躊躇していた。

まだ、足は床に着いたままだった。

それだけでも、身体中の縄は少しずつキツくなって、腕は上に引っ張られるので、辛いはずだった。

彼は、「もっと、もっと、踵が上がるまで、引っ張ってくれ。」

まるで何かに命令されてるかの様に、下を向きながら、大きめの声で、私に言っている。

自分の限界に、向かうのが好きなのか。

追い込むのが好きなのか。

かなりの、強者だと思った。

「1分くらいにしましょう。」私はそう言って、時間を見た。

午前1:55からが56になったら、すぐ降ろして縄を解こうと決めていた。

その1分は彼にとって、多分至福の時だったと思うと、人間の幸せがどこにあるのか、また考えさせられた。

「じゃあ、下げますよ。」

私は慎重にゆっくり踵をつけた。

安心感からか、疲れたのか、床にゆっくり横たわった彼は、

「縄を解いてくれ。」そう言った。

やっと、彼の中で納得したのか、静かなゆっくりした口調だった。

私は、なるべく早く縄をゆるめた。

それから、外し全ての縄が外れた。

彼は立って手を伸ばしてストレッチをしていた。

「少し手が痺れてる…」

「大丈夫?」私は、心配だった。

「大丈夫、大丈夫。」

しばらく、伸ばしたり、曲げたりを繰り返しやっと痺れは無くなったと、彼はシャワーへ

あぁ、痺れるほどの感覚が快感になるのも、もうすぐなのだろうかと。

私は思いながら、縄を掌と膝に巻いて片づけた。

この彼の、依頼話はまだ、続く。

これは、序の口、上の口、下の口なんて…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛している証 ハメリュ @megu4445

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る