しばらく経って

「もう一週間経っちゃったねぇ」

「経っちゃたなぁ」


 ―――あれから一週間の月日が経ってしまった。

 学校生活も徐々に慣れ始め、あらかたこの空気にも慣れてきたような気がする。

 一週間も過ぎれば、クラスでのコミュニティもある程度形成されるものだ。

 近くに座った人間や、元同じ中学の人間など、会話する機会も増え、新しい環境に共に慣れようと自然に動いてしまう。

 集団でいるものほど楽で、安心できる場所はない。

 始めの友人構築さえ乗り切ってしまえば、自ずと学校生活に順応していくものだからだ。


 さて、かくいう俺はどうなのか?


「葵くん、お友達できた?」

「……友達って言える人間は残念ながら」


 ……できておりませんでした。

 あまり言い訳はしたくないのだが、大人の頃とノリが違って中々踏み切ることができていなかった。

 それに、話しかけて拒絶でもされてしまうと考えてしまいどうにも話しかけ難い。

 しかし、このままずるずる何もせずに過ごしてしまえば孤立してしまうこと間違いなしだ。


 今でこそ俺の正面の席に座って俺の顔を見ている安芸がいるものの……って、見つめるな恥ずかしい。


「でも、話しかけられることはあるぞ!」

「そこから会話に繋げばいいじゃん!」

「それができたら苦労してねぇよ! 馴染み方が分かんないの!」


 仕事の話や社交辞令ならともかく、若者の話に合わせるのは方法が分からない。


「見た目に反してこの陰キャっぷりにお姉さんは涙を隠し切れません……ッ!」


 可哀想な子を見たような目を向けるな、タイムリープしても心は硝子なんだぞ。


「まぁ、葵くんは友人って人はいないかもだけど人気者であることには間違いないから別にいいのかもねぇ~」

「人気者?」

「そうだよ! ほらっ!」


 そう言って、安芸は首を横に向ける。

 同じように俺も視線をズラすと、そこにはいつの間にか現れたクラスメイト達の姿があった。


「御崎くん、今月の『beautiful』見たよ!」

「佐倉ちゃんと一緒に写ってるけど、やっぱり御崎くんもモデルだったり!?」

「ねぇねぇ、写真撮ってもいい!?」


 などなど、わざわざ雑誌を持ってそんなことを言うクラスメイト。

 女性雑誌ということもあってか、この前の撮影の件はすぐに周知されていた。


「しゃ、写真はちょっと、な」

「そっかぁ……残念」


 クラスメイトの一人がしょんぼりとしたような顔を向ける。

 これが安芸の言っていた人気者のことだろうか? 確かに箔のおかげで話しかけられてはいるが……初手から罪悪感を感じているんだけど?


 俺がもう一度「ごめんな」と言うと、クラスメイト達は「こっちこそごめんね」と言い残しその場から離れてしまった。


「ふへへ、葵くんは人気者さんだねぇ~」

「今のだけで人気者の基準を満たしているんならそうだな。っていうか、俺の方からしてみれば安芸の方が人気者だぞ?」


 今はこうして俺と一緒にいてくれているが、いつもクラスの誰かに囲まれている。

 整った容姿と明るい性格、誰にでも隔てなく接する社交性が故にそのようなことが起こっているのだろう。

 前と同じく、安芸はしっかりクラスの人気者になっていた。


「人気者の基準って難しいね」

「安芸が言い始めたことだけどな」


 にししっ、と。安芸は笑う。

 ……こういう可愛らしい笑顔をすぐに見せるから人気になるんだろうなぁ。


(……安芸を眺めていたら何か分かるか?)


 安芸ぐらいの社交性があれば、きっと俺だってクラスの輪にちゃんと入れるだろう。

 佐倉もきっと、ただ芸能界に片足を突っ込んだだけの人間よりもそういう人間を好むはずだ。

 そう思い、俺はこっちを見ている安芸の顔を見つめ続けた。

 すると―――


「あ、あのっ……ごめん、ちょっと見すぎだよぉ」


 安芸は頬を染めて顔を逸らしてしまった。

 恥ずかしくなったのだろうか? 見られ慣れていると思っていたのに。


「安芸だって俺のこと見てたじゃねぇか」

「葵くんは別! 私も別!」


 この世の中は平等ではないらしい。


「あ、葵くんは見られ慣れているかもしれないけどさぁ……かっこいい男の子に見つめられちゃうと普通は照れちゃうもんなんだよ……」


 ボソッと呟く安芸。

 残念なことに、しっかりと聞こえてしまってはいるが。


「それは褒めてくれてんの?」

「ば、馬鹿っ!」


 安芸が俺の頭をポカポカと殴ってくる。

 確かに俺は見られ慣れているから今更どうこう思わないが、照れると分かっているなら人にするのもどうかと思うぞ?


「葵くんは顔がいいことをもう少し自覚した方がいいんだよ!」

「お、おう……反応に困る褒められ方だ」

「じゃないと、友達なんかできないよ!?」


 それは困る。

 俺だってせっかくのリスタートは思い出に残る青春を送りたいと思っているのだ。

 佐倉に好かれるような男になるためにも、普通の人間として真っ当になりたい。


「分かった、今後は安芸の言う通り……一切誰とも目を合わせないようにする」

「ダメだよ!?」


 ダメなのか、難しいな。


(っていうか、まだ佐倉の姿がないな)


 今は朝のホームルーム前。

 遅刻になる時間までまだ少しあるが、教室を見渡しても佐倉の姿はなかった。

 それに、来ていたとしてもここ最近佐倉が登校する度に話しかけに行っていた安芸が動いていないのなら、本当にまだ登校していないのだろう。


(まぁ、別におかしなことでもないか)


 佐倉は仕事も忙しいだろうし。

 ただ少し話したかったなと、それだけはどうしても思ってしまった。

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