第11話 爺さん、看板をつくる 改
魔樹を街の外で取り出し必要な部分を切り落とし、残りは商人組合に売ることにする。
以前、賃貸契約を担当した男、スティンジーを街の外に呼び出し査定をさせたところかなりの高値が付いた。
「核の残った魔樹など見たことがありません!」
かなり興奮して樹の価値を早口で捲し立てられる。
売った金は4等分してそれぞれ少年達に持たせた。
「金はいずれ必要になる時がくる。
自分で稼いだ金は自分で管理するとよい。
長く生きた者からの提案だ。」
「イヌイ様の提案ならば従います。」
少年達は初めて手にした金を大切に持ち帰った。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
3人は生まれてからずっとお金を使った事が無い。
必要な物は全て孤児院から与えられた。
「これで欲しい物が何でも買えるんでしょう。」
「おかあさんが「真実の愛は買えない」って言ってたよ。」
「マクシミリアン、ゴリアテ、これから商店街に行きませんか?」
お金を眺めている二人にフランチェスコが呼びかけた。
「噂ですが夜の間しか開かない魔法商店で、とても強い魔法の巻物が購入できるそうです。
強い魔法を覚えればイヌイ様に褒めて貰えると思います。」
「いいね!賛成!」
3人は皆が寝静まってからそっと寮を抜け出した。
夜の商店街は、ほぼ閉店しており人通りがほとんどない。
明かりが灯る店を覗いて回ったが魔法商店はなかった。
「お店ないね帰ろうよ、眠くなってきたよ。」
「仕方ありませんね。」
こんな遅い時間迄起きていたことの無いマクシミリアンは、既に路肩で
「起きなよ、帰るよ。」
ゴリアテが揺さぶると「うあっ?」と返事をして立ち上がる。
ゆーらゆーら揺れながら歩きだすマクシミリアンを「どこに行くの?」と止めるが、そのまま歩みを止めない。
そのうちマクシミリアンの姿がふっと消えた。
「ええっ?!」
二人が後を追うと突然景色が入れ替わり、目の前に不気味な佇まいの商店が現れた。
「なんか、如何にもといったお店だね。
これが噂のお店かな?」
「カダス魔導書店と看板に書いてありますね。
間違いないでしょう。」
ふらふらと店に入るマクシミリアンを追った。
店内に入ると商品どころか棚も見当たらない。
店主と思われる漆黒のローブを纏った人がひとり居るが、性別も年齢も分からなかった。
「私が交渉しますので、二人は下がっていてください。」
フランチェスコが二人に注意を促した。
「何か御用ですかな?」
「強い魔法の巻物があると聞いて来ました。」
「どの位強い魔法をお望みかな?」
「神の奇跡のような魔法が欲しいです。」
「それは強い魔法だ。しかし、より強い魔法をご存じですかな?」
黒衣の男が一冊の魔導書を取り出した。
「これは古き神々の知識が収められた魔導書。
これを読み解く事ができれば、貴方様方は大いなる力を取り戻すでしょう。」
「読み解けなければ?」
「狂います。
大いなる知識を得るためにはその程度のリスクは些少なこと。
如何なさいますかな?」
悪魔との契約でこのような取り交わしがあると教えられたフランチェスコは迷った。
「悪魔など卑小なモノと比べられるとは心外この上ない。」
心を読まれた?
「安心めされよ、私ごときが貴方様方に叛意を持つなど恐れ多きこと。」
そう言うと膝をつき魔導書を掲げた。
「これは献上いたします。
お早いお帰りを心よりお待ちしております。
&$#!&*¥%」
最後に聞き取れない言語を発して店共々男は消えた。
魔導書一冊を残して。
「ネクロ、ノミコン?」
この世界に無い言語で書かれた表紙を3人は読み上げた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
今日は看板を作ることにする。
材料は魔樹の板、道具は己の肉体。
指先に気刃を作り樹に当てるとスルッと入り込む。
一心不乱に刃を入れる作業に没頭した。
向かいでロッタ親子が熱心に作業をみている。
この一ケ月で母親ベアトリーチェはほぼ回復した。
家の中での日常生活に支障はないが、外に出ることに恐怖を感じ過呼吸の発作を起こす。
元旦那に再会することを極度に恐れていた。
楕円の台座に漢字で「戌亥」と彫り、周辺に組子細工を施した異国情緒溢れる看板が完成した。
「すっごい綺麗。ねえ、お母さんも綺麗だと思わない?」
「そうね、綺麗だし神秘的なものを感じるわ。」
2人には好評のようだ。
戌亥は機嫌を良くして早速軒下に飾ることにした。
夕食は屋台で買ってきた料理を並べる。
久しぶりに味付けされた料理を3人で舌鼓をうち平らげる。
食事の後、日課である孤児院の稽古に出かけた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
少年3人対戌亥の模擬線は戌亥の完勝であった。
開始直後、マクシミリアンとゴリアテが挟撃で迫る。
2人を無視して丸裸のフランチェスコを戦闘不能にする。
そして各個撃破である。
治癒、補助の支援無しで2人に勝ち目は無かった。
稽古終了後、姿の見えなかったネーヴェが現れた。
「お疲れ様でしたイヌイ様。手厳しいですね。」
「自分を強いと過信すれば
教える者はその箍を締め直すことも義務ですので。」
「子供達を思っての躾はたいへんありがたく思います。
それと最近、イヌイ様の顔の険が薄れているように思います。
とても魅力的に見えますよ。」
ニッコリと笑い、ネーヴェは去っていった。
家に帰ると魔女にしか見えない魔女が客と言い張り待っていた。
全身黒づくめにとんがり帽子、顔はシミとイボだらけで深い皺が刻まれている。斜視の目は左右で大きさが違う。
「おじいさん、お帰りなさい。」
怯えたロッタが迎え抱き着く。
「お友達だと言われ・・・上がってもらいました。」
おろおろするベアトリーチェ。
「二人とも2階へ行きなさい。」
戸の閉まる音を確認すると魔女の対面に座った。
「さてと、貴女はどこの誰様かね?」
「私は北の樹海に住むただの魔女さね。」
「ただの魔女に知り合いはいないが。」
「これから知り合い、いや、お友達になる予定だからね。」
ヒヒヒと笑う魔女。
「要件を聞こう。」
「あんたせっかちだね。
もっとお互いを知るために会話が必要だと思わないかい?」
「なにかの暗示をかけようとしても無駄だ。」
「あれ、ばれてたのかい!仕方ないね。」
魔女の首飾りの目が閉じた。
「表の看板、あんたが作ったのかい?」
「そうだが。」
「あの看板は神の力に溢れている。
もはや聖遺物と言って過言じゃない。
あんなもん飾っとくと教会の連中が放っておかないよ。」
「そうはいかない、あれがなければ商売ができない。」
呆れ顔になる魔女。
「折角の忠告を無視して後悔するよ。
だから
「余計なお世話だ。
非常識な
魔女は一瞬だけ、鬼のような形相を浮かべた。
「ああ、本題だ、あんた何故神の力を使える?」
「お前は神の存在を信じているのか?」
「なんだい、信じているからここにいる。
言っている意味が分かるかい?」
「ならば話そう。」
戌亥はこの世界に転移してきた理由を話した。
「驚いたね。理解はしたけど納得できないね。」
「だろうな、教会に知られば縛り首になりかねん。
荒唐無稽な話だ。」
「しかしね証拠はあるんだよ神の力がさ。」
「この世界では神の力をなんと捉えているのだ?」
「原初の力、無色混じりけ無しの純粋な力だよ。」
「質問があるのだが、神の力と魔力の違いは何だ?」
にやりと乱杭歯をむき出しにしたあと魔女が答えた。
「魔力には色があり混ぜ物によって色が変わる。
その混ぜ物は精霊で光、闇、火、風、水、土、生、死と全部で8つ。
原則、神の力は精霊経由で人にもたらされるので無色は存在しない。
神の力を精霊が食い、力を付けた精霊が人に魔力を与える。
神の力の劣化したものが魔法。
これが私の持論さ。」
少し息が上がったように見えた。
「神の力で魔法を使えるのか?」
「魔法は精霊の具現化だからね。
呪文も精霊を召喚する為のものだから無理だと思うよ。
そもそもどうやって神の力を具現化するんだい?」
「御力を練って気に変える。」
「なんだい、そりゃ?」
懐から鱗を取り出し、魔女に渡した。
「金塊かい?随分と純度が高いようだけど。」
手に取った魔女の顔色が変わった。
「あんた!これ!龍の鱗だね!
なんて物持ってるんだい!こんな貴重な物!
最高級の魔法の触媒だよ!これ一個で城が買えるよ!」
「そうなのか、金貨一袋にしかならなかったぞ。」
「こ、こ、これを売ったのかい!!!!」
いまにも心臓麻痺を起こしそうな形相に変わる。
戌亥は気を練って指先に刃を作った。
「その鱗を置いてくれ。」
「あたしにこれを売っておくれ!」
「考えておく、神の力を見たくないのか?」
好奇心に勝てずにしぶしぶ鱗を置いた。
「さあ神の力を具現化して見せておくれ。」
「もう具現化してる。」
人差し指を立てて見せた。
「何も見えないね。」
「まあ、見てろ。」
刃が鱗をスッと両断するのを見て魔女が悲鳴を上げた。
「ギャアアアア!私の鱗がぁぁぁぁ!!」
「まだ売るとは言っていないが。」
戌亥はいちいちうるさい魔女だと呆れかえった。
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