第10話 爺さん、親子をかくまう 改

翌朝、ロッタの母親が悲鳴を上げて目覚めた。


戍亥の姿を見ると這って部屋の隅に逃げ頭を抱えて錯乱する。

ロッタは母親の元に駆け寄った。


「お母さん!どうしたの?!お母さん!」


母親を抱きしめ声を上げると戌亥を見た。


「おじいさん、お母さん助けて・・・」


助けを求めるロッタに戌亥は静かに答えた。


「ロッタ、お母さんは心に大きな傷を負ってしまった。

心の傷は私には治すことができない。」


「お母さん治らないの?ずっとこのままなの?そんなの嫌だ!」


「心の傷は時間をかけて自然に治るのを待つしかない。

治るまでお母さんに心配をかけさせないことが大切だぞ、ロッタ。」


うんうんと頷くロッタ。


「でも、帰ったらあの男がまた来るかもしれない。

怖い!帰りたくない!」


戍亥はロッタ親子を当分の間、かくまう事を決めた。


「ロッタ、お母さんが治る迄この家に住みなさい。」


「いいの?!」


「弱者の保護は神の意志に沿うものであろう。」


「よくわからないけど、ありがとう!」


親子の寝具や着替えが必要だろう。

食器や食卓、椅子も必要だろうか?

二人分の聖餐を用意した後、戍亥は「賢婦と良夫の友」へ出かけた。


前回購入した寝具を2組、窓用の長布、大小の皿と椀、肉叉フォークスプーン、湯飲みを3人分、3人で使える食卓と椅子、そして着替えである。


衣服はまだしも下着は検討もつかない。

女性店員を捕まえ親子の身体的特徴を伝えて揃えてもらう。

色や柄の好みを聞かれるが答えようがなかった。


「ロッタを連れてくればよかった。」


少々後悔するが、結局自分の好みで決めてしまう。

会計を済ませ配達を頼むと、搬入口で筋骨隆々の男が一人荷物を背負って待機していた。


「旦那!よろしく頼みまさ!」


食卓、椅子、寝具を背負い、両手でその他の荷物を運ぶ姿に曲芸を見せられた気分になり賃金を多めに支払った。


「毎度ありぃ!今後も「賢婦と良夫の友」ごひいきに!」


ほくほく顔で去っていく男を見送った。


ロッタが連れ出したのかミミが外に繋がれている。

戌亥が近づくと尻尾を振り、鼻面を当ててきた。


家に入り、二人の様子を見にそっと2階へ上がる。

ロッタと母親は布団に潜り込んで寝ていた。


起こさないように1階へ戻り、食卓と椅子を配置する。

食器を手に取り棚が必要な事に気が付いた。


「また今度にしよう。」


物音に気づいたのかロッタが下りてきた。


「うわぁ!すごい!」


新品の食卓と椅子、食器を見てロッタははしゃいだ。


「ロッタこれは着替えだ。お母さんの分もある。」


「新品の服!きれい!かわいい!おじいさん、ありがとう!」


黄色の花柄のワンピースを広げて小躍りするロッタ。


「足りないものがあれば遠慮なく言ってくれ。」


ロッタが服の束を抱えて2階へ上がっていく。


「お母さん!見て!これ、お母さんに似合うよ!」


戌亥は母親の回復を静かに祈った。


窓側の部屋を親子に使わせる事にして窓に長布をかける。

戌亥は城壁側の部屋に自分の寝具を運びこんだ。


生活の準備は大方終了した。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


それから1ヶ月、そろそろ店舗らしいことをしようと思い立つ。

まずは看板を用意するため案を練る。

ロッタの手伝いもあり案がすんなり決まった。


材料調達のため、樹海に向かう。

マクシミリアンとゴリアテ、フランチェスコを連れて行くことにした。


この一ケ月でこの3人は驚くほど成長をした。


稽古中の怪我をフランチェスコが治療することで、回復魔法がかなり上達する。

更には障壁や身体強化と補助魔法の上達も目覚ましかった。


「今から使う術は他言無用だ。」


3人に告げると瞬間移動で樹海に移動した。


「この魔法は文献にしか存在しない神の御業では?!」


フランチェスコは激しく興奮していた。


「勘のいい子は嫌いだぞ。」


「フランチェスコ、イヌイ様ですよ。」


「そう、気にしたら負けです。」


「そうですよね。イヌイ様です、驚いて損しちゃいました。」


3人でわははと笑っている。

「行くぞ。」と出発を告げた。


「今日の目的は魔樹狩りだ。」


「狩り?捕まえるんですか?」


マクシミリアンは興味津々だった。


「そうだ、核を残した状態で行動不能にする。」


「何の意味があるんですか?」


ゴリアテが不思議そうに尋ねる。


「店も看板の材料にする。」


「イヌイ様お店を持っているんですか?!」


マクシミリアンとゴリアテがはもった。


「言わなかったか?」


「初耳です!何を取り扱っているのですか?」


フランチェスコは店に興味を持ったようだ。


「絵だ。」


「えええええー!」


だじゃれではないようだ。


「いたな。マクシミリアン、ゴリアテ前へ出ろ。

フランチェスコ、障壁、身体強化を唱えたら後方へ下がれ。

私は最後方で援護する。」


「イヌイ様のお手は煩わせません。ゆっくりお休みください。」


マクシミリアンが軽口を叩いている間に障壁、身体強化を唱えたフランチェスコが下がってきた。


「僕は上を払い落とす、下の伐採は任したよゴリアテ。」


「うん、任された。」


息を揃えて2人が動き出す。

前傾姿勢のまま間合いを詰めるゴリアテ。

注意を引かれる魔樹の頭部へ抜き払い横一線で光の斬撃を飛ばすマクシミリアン。


頭部を切り払われ、態勢の崩れた魔樹の根本を居合一閃で切り抜くゴリアテ。


倒れたところを枝打ちされて、長さ20m直径4mの見事な丸太の出来上がりである。


「見事!素晴らしい連携だ。よくやった!」


3人の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「イヌイ様、これどうやって運ぶんですか?」


「収納を使う。」


胸元をぽんぽんと叩いた。


「えっ?イヌイ様の収納は手で持てる位の大きさが限界と以前お聞きしたのですが?」


「そう、手で持てる位の大きさだ。」


丸太を片手でひょいと持ち上げて懐に収納してしまう。

目を丸くする3人に戌亥は笑みをこぼした。

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