第4話 爺さん、冒険者になる 改
道中少年たちの身の上話を聞き、この世界の仕組みの断片が判明する。
王国制で国王の主導の元、施政されていること。
孤児院が存在し国が教会に管理運営を委託していること。
財政は民間からの寄付で潤っていること。
孤児院では全員が兄弟姉妹とされ、3人も同様に育てられたこと。
孤児院を卒院すると国に雇用されること。
マクシミリアンとゴリアテは騎士団への入団が決まっていて、日々教練所に通っていること。
フランチェスコは神官見習いとして教会で日々研鑽を積んでいること。
そして孤児院長がとても子供思いで皆がお母さんと呼び慕っていること。
そんな話を聞いているうちに城塞都市の城壁が見えてきた。
「あれは関所ではないかな?私は身分証の類を持っていない。」
「ボクがイヌイ様の身分を保証します。任せてください。」
戍亥はそれほど期待はせず愛想笑いを返した。
少年達の姿を見た門番が血相を変えて詰所に戻っていく。
隊長があたふたと駆けてきて少年達から事情聴取をはじめた。
戍亥は少し離れた場所でやり取りを聞いている。
どうやら許可を得ずに森に赴き孤児院で大騒ぎとなり、明日になれば騎士団の派遣も決定してようだ。
少年達は迎えが来るまで留置場で拘留されることになり戍亥も連行される。
仲間の遺体は門番が丁重に運んで行った。
「しょうがないねですね、無断で樹海に行きましたから。」
フランチェスコが宙を仰ぎ見て呟いた。
馬車が到着した気配がするとバタバタと足音が近づいてくる。
小太りの司祭が少年たちの名前を叫びながら留置場に飛び込んできた。
「お前たち!よくぞ無事で!」
少年たちの姿を見て安堵したのも束の間、1人足りないことに気づき絶望した表情に変わった。
「カルディナ司祭ごめんなさい!ボクのせいでケビンが・・・」
最後まで話し続けることができずにマクシミリアンは泣き崩れる。
司祭はマクシミリアンを抱きしめながら静かに嗚咽を漏らした。
「イヌイ殿、子供たちを救ってくれて本当にありがとう!
是非とも教会に立ち寄ってほしい!改めて礼をしたい!」
カルディナは戍亥を手を力強く握りしめる。
戍亥が「必ず」と返すと少年たちを連れ馬車で去っていった。
戍亥の身分は司祭によって保証され、仮ではあるが身分証を渡された。
「この街で酒と女を楽しめる場所はあるかね?」
「ああ!ここはその手の場所なら幾らでもあるよ!」
門番は街の構成と遊郭の場所を快く教えてくれた。
都市の中心にそびえたつ「蓋」と呼ばれる塔は、地下大迷宮の真上に建造された封印である。
古来より街は大迷宮に挑戦する冒険者との商買で栄えてきた。
武器・防具・薬・生活必需品・食料とこの街ならば全てが揃う。
宿屋も高級から木賃まで全てのランクに対応し、その日暮らしの冒険者がばら撒く金貨銀貨で飲食店、遊郭もたいへん繁盛していた。
「教会は「蓋」の反対側、裕福層の居住域にあるよ。」
「宿は冒険者組合に行けば安くていい宿を紹介してくれるが、もう店じまいしてる時間だな。
組合は蓋の2階にあるよ。行けばすぐに分かる。」
辺りはすっかり闇のとばりが落ち家々に明かりが灯っている。
戍亥は門番に礼を言い「蓋」に向かって歩きだした。
少し歩くと魔法の灯が煌々と灯る通りを見つける。
道の両脇には飲食店や酒場がところ狭しと並んでいた。
「まるで新宿か渋谷のようだな。」
不夜城の文字が頭に浮かぶ。
様々な人種が入り乱れ街中を埋めている。
店先に並んだテーブルで料理を食べ、酒を飲み交わす者。
肌が露な服装の女性と何やら交渉する者。
呼子に引き摺られ店の中に消える者。
久しく味わっていない街の喧騒に心が高揚した。
軒先から肉を焼く匂いが漂ってくる。
タレを付けて焼いているであろう匂いは焼き鳥を思い出させた。
この地に来て聖餐しか口にしていない戍亥は、味のある料理を無性に食べたくなる。
そして何よりも酔える酒が飲みたい。
しかし手持ちの鱗が金として機能するか分からない。
鱗を大きめの砂金ほどに砕き試すことにした。
「店主、この砂金で1本貰えるか。」
串焼き屋の店主は砂金を受け取ると呪文を唱え目を丸くした。
「あんた!凄い純度の金じゃないか!これ1個でこれを全部買っても釣りがくるぜ!」
どうやら魔法で真贋が判明するらしく金として機能することが判明する。
戍亥は更に細かい砂金を渡し1本購入すると釣りを受け取らず立ち去った。
「お大臣様!ありがとうございました!」
店主の喜びに満ちた礼が聞こえた。
串焼きを食べながら歩いていると後から声を掛けられる。
振り向くと40歳位の小奇麗な女がニコニコと微笑んでいた。
「あら、いい男ね!おじいちゃんだけど。
今夜泊まるとこあるの?ここに泊まっていかない?」
そう言うと戍亥の腕にしがみ付いてくる。
聞けば遊郭の遊女だった。
「今夜お茶引きでさ。客取って来いって追い出されたの。
あんな串焼き1本で砂金を払っちゃうんだもん。
びっくりしちゃった。ねえ、いっぱいサービスするよ。」
女は豊満な乳房をぐいぐいと押し付けて誘惑する。
食べかけの串焼きを無言で差し出すと肉を齧り取った。
「おいしいねえ、これ!今日ご飯まだだから助かる!」
その一言で女を買う事に決めた。
「大旦那様!こちらの娘はどうでしょう!当店のNO1の姫でございます。」
店に入り大粒の砂金を見せると女は店の奥に連れていかれ、代わりに若くスタイルの良い美女が現れた。
「済まんが先程の女で頼む。」
若い女はぷりぷり怒り乱暴にドアを閉めて消えた。
「私で良かったの?あの娘、評判いいわよ。」
女は酒を注ぎながら申し訳なさそうな顔をした。
「私は出会いを大切にする
つまみを一口で頬張り酒を飲み干すと女の手を取った。
「源氏名はユラユラ。本名は・・・アイル。」
アイルは握られた手の甲に頬を擦り付けた。
「アイル、良い名前だ。お前の体を見せてくれ。」
立ち上がり帯を解くと着物がスルスルとはだけていく。
経年で自然と付いた肉と崩れた体形を恥ずかしそうに隠した。
「綺麗だぞ。」
耳元で囁かれただけで股間から体液が滴り落ちた。
少しきつめに抱きしめられ寝所に押し倒される。
激しい口付けと手による愛撫でアイルは幾度となく絶頂を迎えた。
戍亥を体内に受け入れたアイルは、繰り返し押し寄せる快楽の波に飲まれ我を忘れる。
館中に響き渡る嬌声を上げ続け、戍亥の射精と共に気を失った。
翌朝目覚めるとアイルの姿は無くやり手婆が朝食を運んできた。
「昨夜はお楽しみでしたね。」
婆は戍亥の顔を見るなりニヒヒと笑った。
従業員一同に見送られ店を出る。
大きめの砂金の効果を思い知り換金することを考えた。
「こういう時は冒険者組合で換金できたよな?
それには冒険者登録が必要か。
今後のこともある、ここは登録をするか。」
そこでふと仮の身分証で登録できるのか不安になる。
物語では審査基準はかなり厳格だったはず。
「ならば旅の途中で紛失した設定にしよう。後は出たとこ勝負だな。」
たいへんザルな計画であるが必ず成功すると確信していた。
蓋に到着するとそこは祭りの会場と思わせるほど人と物で溢れかえっている。
迷宮入口前の広場には色とりどりの装備をした冒険者と、冒険に必要な道具・薬を陳列した屋台が処狭しとひしめきあっていた。
蓋入口のゲートを見上げると「冒険者組合はこちら!」の看板が見える。
矢印の指し示した方を見ると階段があった。
うす暗い階段を上がっていくと両開きの扉を見つける。
中に入ると思ったより広く明るい部屋に出た。
冒険者の姿はまばらで受付嬢がアクビをして眠そうにしているのが見える。
戌亥は受付嬢の前に立つと名札を見て尋ねた。
「イザベラさん、忙しいところ済まないが相談に乗っていただきたい。」
微笑みを浮かべ丁寧に話しかけた。
「どのようなお話でしょう?」(やだ!イケおじ!)
話かけられ初めて気がついたイザベラは姿勢を正しぱぱっと髪を整えた。
「街に来る途中、大事な所持品を失ってしまってね。」
何を落したか明かさず内容を濁してみた。
「ああ、組合証の再発行のご依頼ですね!」(一を聞いて十を知るが座右の銘。これで好感度爆上がり!)
出来る女をアピールするために即座に答え、用紙を取り出し記入事項を説明をはじめた。
「賢い娘さんで話が早くて助かる。それと今手持ちがこれしかない。」
目的達成をほくそ笑み、鱗の塊を懐から取り出した。
「これは大きな金塊!換金をお望みですね!かしこまりました!
少々お時間をください!」(やだ!金持ち!私の本気をみせなくちゃ!)
塊をウンショと持ち上げ奥にヨタヨタと歩いていく。
少しすると戻ってきて組合証を手渡した。
「イヌイ様、こちらが組合証になります。」(なんて素敵なお名前の響き!なんて立派で男らしい手!それにとても暖かい。こんな手で愛撫されたら私!)
差し出された組合証を受け取る手を握り締め離そうとしない。
戌亥は仕方なしに声をかけた。
「換金はできたかな?」
「あっ!申し訳ございません!」
バタバタと奥の部屋に駆け込み、金貨がぎっしり詰まった大きい革袋を持って現れた。
「手数料はこちらから差し引かせていただいております。」
革袋を受け取る戌亥の手を再び握りしめる。
「もうよいかな?」
しばらく好きにさせていたがキリがないと思い声をかける。
なにやら妄想していたが我に返っていた。
「門番に宿を紹介してもらえると聞いたが?」
「はい!とても良い宿を紹介いたします!」
間髪入れずに宿の案内状を差し出すと熱のこもった説明をされた。
「こちらをお持ちください!とても良い宿です!
私のお勧めです!是非いらしてください。」
「お世話になりました。ありがとう。」
「またお会いできるのを楽しみにしております!イヌイ様!」
戌亥を見送った後、窓口に終了の札を掛け事務室に駆け込んだ。
「室長!女の子の日になってしまいました!早退します!」
事務室に顔だけ覗かせそう告げると裏口から外に出る。
街中を駆け抜け宿屋に着くとカウンターの奥の部屋に飛び込んだ。
「お父さん!今から来るイヌイ様に一番いい部屋用意して!
お母さん!食事は特別献立よ!私も手伝うわ!」
イザベラの両親はまたかという表情をしてがっくりと項垂れた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「イヌイ様、「乙女の揺り篭亭」へようこそいらっしゃいました。
お待ちしておりました。
またお会いできて嬉しいです。」
とびきり
苦笑いを浮かべる戌亥の手を引き2階の部屋に案内をした。
「こちらが当館で一番のお部屋でございます。」
「良い部屋だ、イザベラさんありがとう。」
部屋の中を一通り見て回り、
「風呂は別ですかな?それとも共同浴場ですかな?」
「おふろ?それはどのようなものでしょうか?」
イザベラはコテッと首を傾げた。
「体を湯で清める場所だが、この地では別の呼び方があるのですかな?」
「イヌイ様の国ではそのような習慣があるのですね。
私達は生活魔法で体を清めます。
イヌイ様に唱えてもよろしいでしょうか?」
そそっと近づき戌亥の胸に手を当てた。
「見た目と違い胸板が厚いのですね。
それに引き締まっていてとても固い。」
顔を火照らせハアハアと息が荒くなる。
やがて戌亥の体をまさぐりはじめた。
「イザベラさん、それは何かの儀式かな?」
「しっ!失礼いたしました!
じゅ!準備も整いましたので唱えます!」
真剣な顔つきになると両手を戌亥の胸に当てた。
「洗浄」
頭のてっぺんからつま先まで温かな波動が流れる。
体どころか服の汚れまできれいに落ちていた。
「これは凄い!ありがとう!イザベラさん!」
驚きのあまり思わずイザベラの手を握り締めた。
「この国では皆魔法を使えるのですか?」
「はい。生活魔法は国民が一番初めに覚える義務があります。」
ぽーと顔を赤らめ答えた。
生活魔法は国の施策であり、子供達が通う学校の必修科目である。
誰にでも扱えるように術式を簡略化し、魔力消費量も極力押さえて発動できるように改良が重ねられ現在に至る。
一般人の魔力量でも日に最低5回程度使用する事が可能であり、まさに先人達の血の滲む努力の結実であった。
「お食事はお部屋にお持ちします。」
イザベラが退室した後、早速洗浄魔法を試してみる。
幼児から習う魔法ならそれほど難しい魔法ではないだろう。
呪文を唱えていないことから想像力が重要だと判断した。
体に感じた魔力の流れを思い出し、
心の中で体の汚れを分解する想像をして唱えた。
「洗浄」
あらかじめ手に付けておいた暖炉のすすがきれいに消えていた。
「成功だ!」
その後同じような要領で小さな火を灯すこと、風を起こす事に成功したが魔力切れとなる。
一般人程度の魔力量しかないことを少し悔しく思った。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
精霊の独り言
皆さんこんにちは。
私は精霊です。
炭素系生物と空気と水の世界では火・水・風・土はテンプレ構成です。
更には光・闇・生・死を加えた8つの兄弟で構成されてます。
んで、私は土です。
なんでかって?一番ヒマそうだからですよ。
どこの世界でも火、水、風は花形じゃないですか。
まあ実際そうなんですけどね。
使ってもらえる場所限定されてるし。
でもね、皆さん想像力欠如ですよ。
星にいる限り必ず大地が足元にあるんですよ!
・・・なんで使わないのかな?
ああ、監視忘れてました。
爺さん、女とイチャついてます。
おっ!魔法を覚えました。
洗浄と着火と乾燥ですか・・・・
土属性は?
火、水、風!ドヤ顔してんじゃねー!
えっ、神の御力おいしい?
ちょっと待って?
モノホンの御力?
なんで爺さんから御力が溢れてんの?
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