車のドアを閉じて、次の目的地を探す。スマホの地図アプリを開いて、深く息を吸いこむ。行き先か…。行き先。

「つぎはどこへ行くの」

女の声がした。

「どこだっていいだろ」

ため息をついて、言い返す。

「黙っていてくれよ」

フロントミラーを覗き込むと、頬を膨らませた彼女が僕を睨みつけているのが見え、目をそらした。

「もっといいところがいいわ」

僕はシートベルトを締めて、冷たくなったペットボトルの茶を飲む。

「”いいところ”ってどこだよ」

ため息が止まらない。

「最近のあなたは公園で鳥ばかりみて…」

腕を組む。目を閉じる。こいつを黙らせる方法はないのか。

「愛鳥家にでもなったのかと思えば、道行く人をぼんやり眺め続けたりして…。それに一体何の意味があるの?」

意味?意味なんてない。たぶん。

「どこだっていいだろう?何をしたっていいじゃないか」

「持ってきた本は一向に読み終わらないし」

エンジンをつけて、とにかく走り出した。疲れたら道の駅にでも寄ればいい。うんざりだ。

「困ったものだわ」

ブーー!大きなクラクションでブレーキを踏んだ。国道に出るところで、ぶつかるところだった。クラクションを鳴らした運転手が怒りの形相をしている。顔をゆがませ頭を下げる。冷や汗が出る。注意散漫すぎる。ゆっくり運転しよう。

赤信号でブレーキを踏み、もう一度深く息を吸い込む。助手席をみると、もうそこには彼女はいなかった。

両手で顔を覆い、首を振る。もう一度息を吸ってそこを見てもやはり誰もいない。分かっていた。でも感じたんだ。

ペットボトルの茶を一気に飲み干した。大丈夫、大丈夫。

国道に沿ってしばらく行くと、道の駅が見えたのですぐに停まることにした。コーヒーでも買って一息つこうと思ったのだった。


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