第5話 いざ鬼の棲む島へ
四人となった鬼頭衆討伐隊。
しかし海賊相手に四人では心もとない。
「あと十人は欲しいところだな」
桃太郎の呟きを聞いた雉川が言葉を挟む。
「いや、四人で十分です」
「少なすぎる」
「人間を増やせば相手に見つかりやすくなります。相手は海賊。ただでさえ警戒しています。我々は慣れぬ船で島へ近づかなくてはならんのです。見つかれば決して上陸などできんでしょう」
「しかし」
「奇襲するのです」
「たった四人でか?」
「たった四人だからこそ」
雉川の考えにも一理ある。
船を発見されれば、撃沈されずとも上陸など不可能だろう。いくら剣の腕前に覚えがあっても上陸しなければなにもならない。小舟で闇にまぎれて近づくことができればあるいは。
「よし、四人で行こう」
桃太郎は覚悟を決め、噛みしめるように言葉を放った。
犬神が町で武具などを買い揃え、猿山は島の情報集めに奔走し、雉川はその情報をもとに策を練った。桃太郎は「鬼頭衆討伐隊」と染め抜いた幟旗をあつらえ、時期を待った。
四人が納得のいく策が練りあがり、その晩の子の刻を待っていざ出発した。
海に着いてから、借りておいた船に乗り、鬼頭衆が陣を構える鬼ヶ島へと向かった。
船上では、雉川を中心に再び戦略を打ち合わせ、犬神、猿山、桃太郎の配置と役割を確認した。じいさんから受け継いだ刀を握りしめ、桃太郎たちは武者震いしていた。
数時間もせぬうちに霞がかった海の向こうに、まるで大入道のような黒い影が浮かび上がった。
「あれが鬼の島か」
討伐の気概に燃える桃太郎ですら威圧感に押しつぶされるような異景。巨大な断崖が立ちふさがる島には、上陸できる場所は見当たらない。おそらく隠されているのだろう。
数カ所に立つ櫓のような建物の一番上に、時折キラと月光を反射して光るものがある。見張りが使う遠眼鏡かもしれない。警戒するに越したことはない。櫓を迂回するように崖に近づく。
「よし、俺に任せとけ」猿山が鈎爪のついた縄を振り回し、大きく投げたかと思うと崖の向こうに引っ掛かった。猿山がしっかりと縄が引っ掛かっていることを確認して、すぐに登り始める。続いて犬神も登る。
桃太郎が雉川に目顔で促すと、「私は登るのは無理ですよ」と雉川が扇子をひらひらさせて言う。
「なに?」と桃太郎は睨みつけるが、「腕力には自信がありませんで」と雉川は済ましている。
崖は数メートル以上ある。
「くっ、俺につかまれ」桃太郎は雉川に背中を向けた。
雉川は「恐縮ですな」と小声で呟くように言ってから桃太郎につかまった。
二人分の体重を支える桃太郎は、一回ずつ手に縄を巻き付けて固定しながら登る。
想像以上に重い。しかしほかに方法はない。桃太郎は腹を決めた。
崖の上から心配そうに猿山と犬神がのぞき込んでいる。
「くっ」
手に縄が食い込んで血がにじみ始めたころ、ようやく崖の上にたどり着いた。最後は猿山と犬神が手を伸ばして引き上げてくれた。
やっとの思いで崖を登り切り、桃太郎が座り込むと、間髪入れず「休んでいる暇はありませんよ」と雉川が扇子を開く。
「なんて野郎だ。桃太郎はお前を抱えて登ってきたんだぞ。少しくらい休ませてやれ」と犬神が噛みつく。
「鬼は目の前ですぞ。休む暇なら鬼退治の後にもございますな、桃太郎殿」
「……そうだな」粗い息を整え両腕をさすりながら桃太郎が返す。
「いいでしょう。それではあらためて策を確認しておきましょう」と雉川は懐から鬼ヶ島の地図を取り出し、細かく指示を出した。猿山は砦の背後に回り火を放つ。あわてて出てきた鬼頭衆を罠にかけるのが犬神。その隙に、総大将の首を獲るのが桃太郎という作戦だ。地図はあいまいな部分が多く、策が成功する確率はおそらくかなり低い。しかし、ここまできたらやるしかなかった。
「みんな、抜かりはないな」全員と目を合わせながら桃太郎が確認する。四人は無言でうなずき、持ち場へ散っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます