心の奥に潜る作業

 少し前、公募に出すために、かつて書いたショートショートを見直していた。

 すると、同じテーマで繰り返し書ているものがあった。

 そうだ、きっと、これは永遠のテーマなのだと思う。


 そう言えば、昨日印象的な夢を見て、メモしなくてはいけないと思いつつ、メモ出来なかった。何か家族に関わることだったと思う。

 わたしにとって「家族とは何か」というのは、生涯のテーマなのだ。


 小説を書く、ということは、心の奥に潜る作業だと思う。

 そして、わたしは年に一回くらいは、そういうディープなものを書いてみたい。

 今度書きたいものも、やはり家族に関することだ。


 家族に一番、男尊女卑を植え付けられた年代であると思う。


「女は結婚しないと幸せになれない」

「女は子どもを生まないと幸せになれない」

「お前が結婚しないから、わたしが不幸だ」

「お前が子どもを生まないから、わたしが不幸だ」

「誰とでもいいから早く結婚して欲しい」

「結婚しなくてもいいから、子どもだけ生んで欲しい」


 こういう言葉を投げつけられて育ち、20代になってからは繰り返し繰り返し刷り込まれ、ほんとうにしんどい思いをした。嘘だと思うかもしれないけれど、ほんとうのこと。


 うっかり賢かった(学校の成績が良かった、という意味での)のもよくなかった。

 もっと馬鹿に生まれればよかったと何度も思った。

 母親の思いを満たすためには、わたしは、頭が悪い方がよかったのだ。

 すると、わたしの学生時代の努力はいったい何のためだろう? と思う。

 努力しない方が褒めてもらえたはずだ。


 では父親がよかったかというと、そうでもない。

 彼はずっと無関心だった。

 無関心って、人を傷つけると思う。

 だから、母親の、何か間違っていたとしても、子どもに向ける情念は、それだけで少し安心出来るものでもあったのだ。なんていう屈折した思い。


 ずっと、どんな人間になりたいか、人生の中で何をしたいか、分かって欲しかった。

 だけど、親には「妻になり母になる」道しかなかったのだと、思う。

 結婚して初めて優しくしてもらったように感じた。結婚して初めて、娘になれた気がした。否定され続けていたけれど、ようやく存在を認めてもらえたと思った。


 もちろん、親のために結婚したのではない。

 だけど、親との確執を考えると、結婚して楽になったのは確かだ。





 でも、いっしょには暮らせない。

 心のスイッチをOFFにしてからでないと、向き合うことが出来ない。

 この、混沌としたものは何だろう?


 過去は永久に消えないのだと思う。

 それを抱えて生きていくしかない。




 いまわたしは一人になりたい。

 とても。

 わたしは、一人が好きなのだ。

 孤独でいい。

 自由に生きていきたい。

 息を吸って。

 手足を伸ばして。


 わたしは、「妻」とか「母」とかの役割に自分をぎゅうぎゅうと押し込みたくはない。

 わたしはわたしなのだ。

 もう二十年近くも、その役割で生きてきたのだから、そろそろそこから抜け出したい。

 わたしはわたしでいい。


 両親に否定された存在でいい。

 両親に否定されていたとしても、生きてゆける。


 小さくていい。

 わたしだけの場所が欲しい。

 そこでわたしはのびのびと暮らすのだ。

 

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