色々な道がある

 思うに、「色々な道がある」というのは、とりたてて才能の無いものには混乱するだけの台詞である。何を選んだらいいか、分からない。正直、レールに乗っかっていた方が楽だ。

 子どもが大学を中退してしまった友だちが言うには「日本は一回レールから外れたら、なかなか戻れないのよね」と。


 色々な道があるけれど、その色々な道を歩いていけるのは、才能のある、一部の人間だけである。もしくは、お金がある人間。才能もお金もないなら、出来るだけレールに乗っかっておいた方が楽に生きられると思う。楽に生きる、というのは悪いことではないとわたしは思うのだ。


 今は高校を簡単に辞めてしまう子がいる時代だ。

 だって、通信制もあるし、色々な道があるからいいよね。

 だけどわたしはこの間、子どもが全日制の高校を辞めて通信制の高校に行ったけれど、その通信制も辞めたんだよね、という話を聞いた。親の心痛を思うと、わたしまで胸が痛くなった。


 通信制の高校に行けば全て救われるような妄言はやめて欲しいと思う。

 どこに行ったって苦難はあるし、何もかも解決するハッピーなことなんて、この世の中には存在しない。何かを成すにはやはり努力とか責務を果たすとかそういうことが必要だ。それは労働して対価をもらうのと同じことだとわたしは思う。何もしていないのに、都合よく周りが動いて都合よく物事が進むなんて、あり得ない。


 通信制の高校に行ってうまく行くパターンは、その子自身が変わってきちんと努力する場合だと思われる。それはほんの一握りだと思っておいた方がいい。うっかりすると単位が取得出来ない、卒業すら出来ない。親がせめて高校くらいは卒業して欲しい、と思ったら、きちんと課題を出しているかどうかなどチェックするしかない。

 大変である。

 小学生ならまだしも、高校生なのである。


 ところで、レールを外れてしまっても、実家がお金持ちで、財産や不労所得があれば全く問題はないとわたしは思っている。

 夏目漱石の小説にも出て来たじゃないですか。

 高等遊民という言葉。

 わたしはいいと思うのです。ひとそれぞれだから。

 お金があるのなら、働く気がないのなら、働かなくてもいいよね。

 昔、高等遊民に憧れていたけれど、実際問題わたしはわりに忙しくするのが好きだから、向いていないなと思っている。そもそも、大前提の「財産」とか「不労所得がある」とかもないので。


 まあそんなわけで、わたしの息子たちも高等遊民にはなれない。

「うちはお貴族様じゃないから、必ず自立して働くこと」と折に触れて言っている。


 我が家の三か条。

 1.犯罪をしない

 2.借金をしない(保証人にもならない)

 3.自立すること

 この三つが守られれば、何をしていてもいいよ、と折に触れて言ってある。

 別に学歴だって無くてもいい。好きに生きていけばいい。

 ただし、自分の力で生きていきなさい。

 自分で部屋を借りて自分で生きていきなさい。家賃も光熱費も全部自分で支払って、家事をするのであれば、何をして生きても構わないよ。自由だ!


 ただ、自由に生きるにもお金は必要で、結局のところお金を得る算段を自分でつけられれば、それでいいのだと思う。お金は必要なだけあればいいが、「必要なだけ」が人によって全然違う。


 わたしも結局のところ、就職した後レールから下りた人間である。

 だって、そのまま働けなかった。やりたいこともあったし、自由に生きてみたかった。今なお、親に、最初の会社を辞めたことをちくちく言われるけれど、わたしは全く後悔していない。自由に生きることが出来て幸せだ。

 わたしに才能があったかというと、それは「好きなものに向かって頑張れる力」かな、と思う。つまり、才能というのは、そんなものでもいいと思う。天才でなくても構わない。


 わたしにとって「自由」はかなり重要な要素。

 だけど、なんとなく、世の中の人の多くはそんなに「自由」要らないみたい。

 それより、レールの上で安穏と暮らす方が好きな人の方が多いように見える。たとえ不自由でも。

 結局はバランスの問題なんだよね。


 話が逸れたけれど、要するに息子たちに対して思うのは、色々な道があって、レールから下りて好きな道を行ってもいいけれど、自由に生きる分の対価は必要だということ。そこは自分で工夫したまえ。

 そして、これまで自分一人で生きてきたわけではないことをきちんと考えろとも言いたい。

 何より、三か条を忘れるな。

 うちはお貴族様じゃないんだよ。

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