嫉妬されやすくサンドバッグになりやすい

 そんなわけで(詳細略)、わたしはケーキ屋さんを辞めたのです。

 結局のところ、オーナーさんと合わなかったのだと思います。

 彼女がもう少しビジネスライクだったらよかったのですが、個人店特有の親密さがあり、女子会的なところがあり、そういうのがダメでした。わたしではなく、向こうが。

 女子会的な活動(比喩用)に参加しないパートさんは「チームプレイが出来ない」になるらしいです。そして、気に障るらしいのです。いや、仕事とプライベートは区別していただけなのですが。 


「私は西さんちみたいに、お米屋さんでお米を買えません。高いですからね」

 こういう主旨のことを、たびたび言われていました。


 要するに、わたしの家は、裕福に見えたらしいのです。子どもが私立に行っているせいでもあるでしょう。でも、事情があって私立に行かせたのだし、おいしいものが好きだから食べるものにお金をかけているだけなのですが、そういうことは理解出来ないようでした。また、理解してもらいたいとも思っていませんでした。相互理解は、奇跡的に起こるものであって(カクヨム内ではこれが多くて嬉しいです)、基本的には為し得ないものだと思っているからです。無意味なことに時間をかける気はしませんでした(毒)。


 不思議でたまりませんが、世の中の多くの人は、「いろいろな角度から物事を見る」ということが出来ないようです。そうして、それが出来ない人から、わたしは妬まれるのです。謎です。なんだか人生イージーモードで、楽々生きているように見られるのです。謎です。そう言えば、妹にも「お姉ちゃんはうまくやっているよね」と言われました。謎です。


 そもそも、悩みのない苦しみのない人間なんて、いるのでしょうか?

 みな、いろいろ悩み苦しみながら生きているのです。

 日常的には、そういう部分を、出来るだけ笑いに変えて明るくいきたいだけなのです。

 でも、そうしていると、「恵まれていていいね」と思われるのです。

 むしろ、悩みや苦しみを出していない分、けっこう大変な気もするのですが。


 オーナーさんにも「恵まれていていいね」と思われていたのだと、わたしは思っています。「西さんちみたいに、お米屋さんでお米買えない」発言からも、少なくとも金銭的に恵まれていると思われていたはずです。そうして、そういう嫉妬みたいな感情を、ぶつけられているなあと思っていました。

 ついでに、お店のわたし以外の従業員に対する不満も、ぶつけられていました。他のパートさんは、オーナーさんよりも長く働いているのです。要するに、代替わり前からの従業員なのです。そうすると、そのパートさんに対しては強く言えないのです。だけど、気に入らないと思っているのです。

 そういう不満のはけ口にもなっていたと思います。言葉の端々からそれが分かりました。


 結局、「鬱症状で勤務困難である」という診断書をとって辞めたのですが、驚くべきことに、オーナーさんは自分が悪いとは思っていないようです。しかも、鬱症状に対する偏見もあり、どうしてそんなふうに脳内戦前なんだろう? と改めて思いました。常々、オーナーさんの発言は前時代的であり、戦前の価値観のようだ、と思っていましたが。


 わたし、サンドバッグになりやすい体質だと、自覚があったのに、今回は本当にしくじりました。しかし、いい経験になりました。

 常に人格否定されていると、受け流しているつもりでも、心の中に見えない毒となって溜まって、精神を傷つけるのです。うっかり一年も我慢してしまいました。


「お姉ちゃんだから」という呪いも、結局なかなか消えないものだなあ、としみじみ思います。無自覚にうっかり我慢してしまうのです。そして、なんだか大丈夫な気さえするのです。


 危ない危ない。

 人生、残り少ないから、嫌なことに時間を費やすのは止めようと、決意を新たにするのでした。

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