家出のススメ

 十代のころに家出をしておけばよかったと悔やんだ。

 優等生なんてろくなもんじゃない。

 たぶん、わたしみたいについうっかり表面上はうまくやれてしまう人間ほど、内面は荒廃してしまうのである。まだ失敗しても全然平気な十代のうちにどうして家出をしておかなかったんだろう? と思ったものである。


 そして、いい年をした今になって、わたしは家出をする。

 家出には財力も必要なのだ。

 家出をしたいときはこころが嵐になっているときだから、いいホテルに泊まらないと、嵐がさらにひどくなる。したがって、家出にはお金が必要なのである。


 これまでに、二度、家出をした。

 実家には絶対に行けないので(実家にはこころの状態のいいときでないと行かないと決めているから)、ホテルに泊まるのである。


 なんだろう?

 家出をしたときは、「もう二度と帰らない」と決めて家を出たはずなのに、一晩ホテルに泊まると、家に帰りたくなる。

 子どもたちが心配で。

 子どもたちにとても会いたくなる。

 子どもたちが嫌で家を出たはずなのに!


 どうしてもどうしても、見捨てられない。

 わたしは感情のコントロールにときどき失敗する。

 大人だけど、うまく出来ないときがある。

 こういう爆発は家でしかしないし、出来ない。

 爆発したら、泣きながら家出をする。


 でも家に帰る。

 ちょっと恥ずかしいけれど、家に帰る。


 子どもたちがいつか家出をしても、家に帰ってくれたらそれでいいな、と思う。

 ちなみに、子どもたちには家出をしたいときは、おじいちゃんおばあちゃんちに行きなさい、お金はここにあるから、それを使って。とりあえず、あたたかく迎えてくれるから大丈夫、と言ってある


 ダメな親でごめんなさい。

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