第9話 ふすま


 大学時代神主のたまごだった後輩とは、部活が一緒でした。


 その日は渋谷で飲み会があった後だったかで、家まで帰るのが億劫かつ、お互い話し足りなくて、彼女の家に初めて泊まらせてもらうことになりました。


 以前より、都内のわりかし一等地にあるのに随分安い家賃だと聞いていました。


 電車に揺られて着いた先、確かにかなり古い家がありました。多分一軒家を改築して賃貸に仕立てたらしく、不思議な構造をしていました。


 お邪魔します、と入ったら照明も暗く、付いていたものをそのまま使っているのだと言います。私と後輩は、後輩のお姉さんが寝ていたのでそーっと部屋に入り一息つきました。


 お茶淹れてきますと台所に消えた(本当におばあちゃんちみたいな一軒家だから台所が離れていて姿も気配も消えた)後輩を待つ間、手持ち無沙汰で部屋の作りを眺めていました。


 ちゃぶ台の向こう側。丁度真っ正面に、押し入れでしょうか、ふすまがありました。天袋もしっかり備えています。



 でも、ベッドがその前に置かれていたのでなんだかとても不便そうでした。温かいお茶を持ってきてくれた後輩に何気なくきいてみました。


「そこのふすま、何?」


 後輩は、ああ、と言ってお茶を置くとベッドによじ登り、ふすまをぱっと開きました。


 そしたら、そこには、壁が。

 漆喰とか、あの、倉の外壁みたいな壁がふすまの向こうにあったのです。


「……」

「壁だから何も入らないんです」

「あー、だからベッド置いてるのね。天袋は?」

「開いてますよ? ほら」


 天袋はしっかりと空間があり、物入れになっていました。


「あれ? ねえ、待って」


 だっておかしいでしょう。

 天袋分の奥行き、ふすまの向こうにあっていい。まるで押し入れが塗り込められてるみたいじゃないですか。


「ノックすると響くんですよね!」

「うわあ」


 なんでわざわざ壁にしたのか?

 収納のままの方が使い勝手良さそうなのに?

 色々疑問が渦巻いたけれど、やがて眠気はやってきます。


 後輩と一緒に、ベッドの横に布団を敷いてもらい寝ました。


 後からきいたら、やっぱりいわくつきだったらしいけど、後輩は神主のたまごだから、きっと大丈夫だと思うことにしました。


 もうあの家はないんだろうなあ。

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