第7話 狐

 大学の頃、世の中に散らばる昔話を採集していました。でまぁ、てっとり早いのが親戚を訪ねることだったので、まずは母方の祖父にお話を聞きに行ったんです。


 祖父の家はとある県の平野の、低い里山が見える辺にありました。屋敷林以外遮るものが無いから陽が射していつも明るい、農家の家でした。


 縁側に座ってガタイの良い祖父の話を色々聞きました。(半分以上方言で分からなかったので母親の通訳付き)その中で聞いた狐の嫁入りの話が今でもお気に入りです。


 祖父がまだ若かったころ、街の明かりはほとんどなくて夜になると満点の星が空に広がっていたそうです。件の里山は真っ黒く見えたとか。


 ある日のこと。

 仕事が遅くまでかかってしまった祖父が、広い畑から真黒な里山を眺めると、一歩手前の道にぽッと提灯の(提灯だったと祖父は言っていました)明かりが灯ったそうです。それは数を増やしていき、最後には列になって明々と光っていたそうです。


 明かりは人の歩く速度でゆっくりと里山のふもとを進んでいったそうです。田んぼにきらきら反射して、それは綺麗で目が離せなかったと祖父は言っていました。消えるまでたっぷり10数分。祖父と、祖父以外の人はその行列を見守り続けたそうです。

 あれは、狐の嫁入りだったと祖父は言っていました。


 もう一度見たかったけれど、それから一回も無い。里山も街も、電気の明かりが灯ってしまって真っ暗じゃなくなった。もう見る事はできないのかもなぁ。

……そんな風に祖父は話を〆ました。


 私は想像したけれど、でもきっと祖父が見た狐の嫁入りはイメージし切れなかった。


 静々と進む提灯の灯り。

 ああ、見てみたかったな。

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