第6話 おまじない



 看護師になって数年後の話です。

 職業柄、怖い話はよく聞くんですが多分これが一番最初に自分で経験した現場の怖い話(ただしほんのりなやつ)。


 かなりご高齢の方……確か当時白寿だったと思います……の担当になりました。大体の病院で、患者さんには特定の、プライマリーや、セカンダリーと言われる担当者がつきます。

 日々の勤務が変則なので、同じ患者さんを同じ人がずっとみることはかないません。それでもプライマリーになると、比較的多く関わることができるようになります。

 プライマリーの私はスタッフの中でも多分一番多くその方と関わっていたのだと思います。

 その方のその日の受け持ちになると、検温や傷の処置をする度におまじないをされました。なんなら挨拶するとおまじないをされる日もありました。


 担当だった私は来る日も来る日も、多分100回……下手したらそれ以上はおまじないをされ続けた時期があったのです。


「今日は何回?」

「さぁ、多分100回は超えた時思うけどもう数えてないよ。普通の会話に織り交ぜておまじないが入ってくるもの」

「それ本当に大丈夫?」

「怒ってはないんだよ。寧ろまた来てねって先刻笑顔で言われたの。おまじない、自然に口から出ちゃうみたい……」



 ある日、その方は長寿を全うして退院されました。

 それからきっかり半年間。

 ひと月ごとに誰かしらの臨終に立ち会うようになりました(他にも急変やら、事故やら、ホルダーごと酸素ボンベで殴られそうになるやら)。


 みんなから、おまじないのせいだよって言われたからそんなもんかと思って仕事を続けました。


 勤務場所が勤務場所なので、持ち回りでそういう風にあたってしまう時期がくるものなのです。きっとおまじないだけの所為ではなかったはず。

 


 おまじないが何かって?


 

 おまじない、と、試しに漢字で書いてみてくださいな。

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